私(西村幸太郎)の一連のブログ記事です。私がどういう人間なのか、どういう活動をしているのか、どんなことを考えているのか、どんな知識やスキルを持っているのか、信頼に足る弁護士か、などなど、たくさんの疑問をお持ちの方もおられると思います。そのような方々は、是非こちらの記事を御覧ください。

交通事故と健康保険・労災保険

交通事故事件を扱っていると,健康保険の話を聞かれることも多いので,以下記してみます。

まず,よくある誤解として,「交通事故での負傷には,健康保険は使えない」というものがあります。そんなことはなく,使えます。ところが,病院にこのように言われると,信じてしまうようです。病院も誤解しているのか,あるいは,健康保険を使ってほしくないからそう言っているのかはわかりませんが,健康保険は利用できるということは,押さえておくとよいと思います。

次に,交通事故の際,健康保険を使う場合は,「第三者の行為による傷病届」などを提出する必要があります。これは,健保が立て替えた治療費等を,健保が加害者に対し,求償するための書類ですね。

では,どういう場合に,健康保険を利用するのがよいでしょうか。まず,治療費の総額が高額になり,また,自身の過失割合が大きい場合は,健康保険の利用を検討するとよいと思います。自分の過失分は,相手方に請求できませんので,その分は手出しになります。しかし,健康保険を利用すれば,健保が7割は負担してくれますから,結果的に手出しが減ることになります。他に,相手方が任意保険に加入していない場合なども,健康保険の利用を検討すべきです。自賠責での傷害部分の保険金額は上限120万円となっていますが,それ以上の治療費が必要な場合もあります。その部分は,相手方に請求することになりますが,相手方が任意保険に入っておらず,無資力の場合,結果的に,治療費を手出しせざるを得なくなる可能性があります。こうした場合に備えるということですね。

以上のように,交通事故でも,健康保険の利用を検討すべき場合があります。

交通事故において,労災保険を利用すべきかと質問される場合もありますので,あわせて記してみます。

これについては,原則として,よほどデメリットが思い浮かばない限り,利用すべきと思われます。労災保険を利用した場合,二重取りを防ぐため,損益相殺という処理で,損害賠償額の調整をすることになりますが,「特別支給金」は損益相殺の対象にならず,もらいっぱなし(これは行政から支給されるもので,被害者が加害者に直接請求できるものでもない)になります。さらに,労災保険が給付された場合の損益相殺の処理においては,費目間流用が禁止されるという特徴があり,治療費として支払われたものは治療費としてしか,損益相殺できません。被害者にも相応の過失があって,本来,過失相殺の関係で,治療費の手出し部分が生じ得たにもかかわらず,労災保険給付により,余分に治療費に対応する給付を受けた場合,費目間流用が禁止されるため,余分にいただいた治療に対応する支払い分は,もらいっぱなしになります。もちろん事案によりますが,一般に,被害者請求よりも労災における後遺障害認定の方が,気持ち緩やかなような気もしますし(社会保険給付の性質上?),労災は活用した方がよろしいのではないかと思います。

なお,労災保険を利用した場合も,「第三者行為による災害届」を提出する必要があります。

会社役員の休業損害・逸失利益

交通事故損害賠償請求事件において,休業損害・逸失利益は,実際には働いていないのに,働いていればもらえたはずだというフィクションを扱うものです。立場によっても,様々な考え方がありますので,問題になりやすいといえます。

そのうち,会社役員の休業損害・逸失利益をどのように考えるかという問題があります。雇用契約に基づき,労働者が会社からいただく給与と異なり,役員は,委任契約に基づき,役員報酬という形で金員をいただきます。役員報酬は,給与と異なり,労働の対価という意味合いだけではなく,他にも様々な意味合いが反映されており,高額になることもあります。法人税の負担の軽減を意図して役員報酬を増額することもあります。親族経営の場合などで,情誼的に増額する場合,利益配当の実質を有する場合など,様々な要素が入り込んで額が決定されるという特殊性があります。役員報酬は,給与と異なり,手続を踏めば比較的増減されやすいというところも特殊性があるでしょう。

一般的に,休業損害・逸失利益においては,「労務対価部分」のみが休業損害・逸失利益を構成し,利益配当部分などについては構成しないとされています。この「労務対価部分」がどこからどこまでかという問題については,同じ会社・同じ業務などなく,個別具体的に検討せざるを得ませんので,検討が大変難しいということになります。サラリーマンの場合の源泉徴収票などとは異なり,役員報酬に関する資料はあいまいなことがあるというのも,揉める原因かもしれません。

労務対価部分は,報酬額,企業規模,株主・役員の構成,従業員の有無・数,当該役員の執務状況等を考慮しながら判断するとされています。

その際,同じ会社の従業員(労働者)の給与水準はどうか(労務対価としての給付なので),賃金センサス(その時々の平均賃金)と比較してどうかなどといった観点で検討することもあります。

実際に認定するときは,報酬実額の●●割という形で基礎収入を決めることが多いようです。

保険会社は,「あなたは役員だから休業損害はもらえませんよ」などと主張することもあるようです。それが否定できない事案もありますが,賠償の対象になるかは,もちろん事案により,個別的な検討が必要ですので,疑問を感じたら,法律専門家への相談を検討してみてください。