私(西村幸太郎)の一連のブログ記事です。私がどういう人間なのか、どういう活動をしているのか、どんなことを考えているのか、どんな知識やスキルを持っているのか、信頼に足る弁護士か、などなど、たくさんの疑問をお持ちの方もおられると思います。そのような方々は、是非こちらの記事を御覧ください。

日本の司法のインフラ(日本経済新聞記事について)

本日の日本経済新聞13面(法務)では,一面,弁護士に関する記事や司法インフラに関する記事がありました。「企業が選ぶ弁護士ランキング」など興味深いデータもありました(日本企業の法務担当者に聞いたとのことですが,どういう基準でデータを取っているのかは気になります。)。

回答企業のほぼ半数が,インハウス(企業内)弁護士を3年以内に増やす予定だということがわかったとのこと。私が修習生だった頃も,企業内弁護士は人気だったので,新規登録弁護士について,企業とうまくマッチングするとよいですね。法務上の優先課題として「企業統治全般」「M&A」「傘下に加えた企業の管理」「外国法・国際法対応」「新事業進出時の法対応」などが連なっており,弁護士のフロンティアを見極める参考になるかなと思いました。

日本司法のインフラに関しては,企業の方,弁護士,ともに,審理のスピードが遅いということを不満に思っている人が多いということです。実感としても,特に企業の方とお話していると,なかなか進まない交渉などについて,不満を抱える依頼者は多いように思います(相手方があることなので,進まない時は本当に進みません。)。「ディスカバリーがない」「損害賠償金額が少ない」という項目がありましたが,これは主にアメリカ法との比較ではないかと思います。日本法を見直す契機として,アメリカ法を勉強するインセンティブになりそうです。個人的には,後者の問題として,懲罰的賠償について,深めてみたいと思っています。

人工知能(AI)が法曹界の未来にもたらす影響についても,言及がありました。「サービスが向上する」というプラス評価の反面,「パラリーガルなど支援業務従事者が職を失う」という懸念の声もあるようです。AIを使いこなせる弁護士(事務所)とそうでない弁護士(事務所)との格差が広がるという声もあるようです。 この点,いま,リーガルテック(リーガルテクノロジー,法律+技術の造語)について本を読み進めているところです。最近,AIやテクノロジーの話題は,よく議論にあげられているように思いますので,引き続き研鑽の上,また記事を書いていこうと思います。

裁判員裁判の功罪

長きにわたる裁判員裁判が終わって一息。この機に,裁判員裁判に関する雑感を記載しておきます。

私は,基本的には裁判員裁判肯定派です。が,一方で,かなり検討の余地があると考えています。 私が,弁護士過疎偏在問題に興味をもつきっかけとなった,司法制度改革に関する卒業論文を書く中で,裁判員裁判についても検討をしています。市民に司法を浸透させる。司法を身近に感じてもらう。市民の手に裁判を取り戻す。市民の常識を裁判に反映させる。とても素晴らしいことだと思います。

ただ,今回も裁判員裁判をしていて思ったのは,「だれのための裁判員裁判か。」という疑問です。刑事訴訟法は,ひとことでいえば,「被告人の権利を守るため」につくられたものと理解しています。人が人を裁くという営みは,きちんと手続が保障された上,裁判官の判断に信用があってこそ,成り立つものと思います。その判断に市民の常識を反映させ,判断の信用を担保させるという趣旨はよいとしても,いまの裁判員裁判は,裁判員の負担を過剰に気にし過ぎな気がします。ベストエビデンス(証拠の厳選)の名のもとに,必要な証拠さえも採用されずに簡略化されているような感覚がぬぐえません。公判前整理手続が予想以上に多数回なされ,被告人の身柄拘束期間は長期化し,なかなか審理日程も決まらない。改善の余地がかなりあるような気がします。 また,検察官の求刑が,従来より重くなっているような気がしてなりません。 被告人のことを考えての手続なのか。改めて検討が必要と思います。

また,制度設計,特に対象事件は再検討の余地があるのではないかと思います。純粋な事実認定に関して,市民の常識を反映させるということであれば,ある程度納得できるところがあります。しかし,評価的な要素をかなり含むもの,または,あまりに専門的な検討が必要なものについては,裁判員裁判対象事件から外すべきではないかと思います。たとえば,責任能力が問題になる事件や過失で専門的な物理・科学の知識・検討が必要な事件,放火で専門的な鑑定の評価が必要な事件など。これらは,「市民の常識を反映させる」という趣旨が,必ずしも合致しないような気がしています。それから,死刑と量刑判断では,審理する内容が違いますから,そもそも制度として審理を別にすべきなのではないかと感じています。

市民にわかりやすく事件を示し,市民の常識を反映させるということで,事件/法的観点の本質に迫り,公判における活性化した審理が実現できるようになった(と思いたい)という点では,公判の在り方に良い影響をもたらしたと思いますが,改善の余地は相当あるはずです。実務家の立場から,これからも情報発信できればと思っています。

上毛町商工会講習会(事業承継について)

12月13日,上毛町商工会の講習会に講師としてお招きいただき,事業承継のお話をしてきました。当事務所の開所式にお越しいただいた会長様とのご縁です。ありがたいことですね。

事例中心で検討し,工夫をしたつもりですが,百戦錬磨の経営者方ばかりを相手にしてのお話ですから,非常に緊張して,また悩んで準備・お話しました。内容は,また別の記事でもいろいろ書いていこうと思います。

講習会中にも紹介しましたが,金子コード株式会社の三代目社長,金子智樹氏が書いた「社長ほど楽しい仕事はない」という本によると,事業承継は,「譲られる側が主体だ」と言います。

特に創業者社長などは,最後に大きな事業を成功させて会社を去ろうとする場合がありますが,きちんと譲って,後進がきちんと会社を発展させたということこそが,なによりも難しい経営判断を見事成し遂げ,最も偉大な功績を遺したということになるのではないでしょうか。譲られる側に焦点をあてるという指摘も,的を得ていると思いますが,私としては,「お客様のため,お客様に価値を提供する会社のため」を考えると,「これから会社を発展させていく譲られる側主体の事業承継」になるのかなと思っています。

質問で,なかなか継いでくれる人がいない,年齢的には引退すべき年齢だが,生活のためにいつまでたっても引退できない,そういう経営者も多い,そういった場合,どうお考えかという質問もありました。とても難しい,それでいてとても現実味のある問題です。どちらかというと,備えておいた方がいいですよという形の講習になりがちなところで,現実,こういった場合どうすればよいのかと問われると,考えさせられるところがありました。ありがとうございます。私もさらに考えます。

事業承継は,①後継者確保・選定・育成・承継方法をめぐる問題,と,②財産をめぐる問題,の大きく2つに分かれます。法律家が関与するのは,どちらかというと②の方が多いです。しかし,昨今事業承継の困難性が叫ばれているのは,むしろ①の問題が大きいです。さらに知見を広め,①の問題,さらには質問にあった経営者の引き際の問題などについても,深めていきたいと思いました。

私の財産にもなる講習会でした。受講者にも,なんらか少しでも受け取っていただけるものがあったらいいなと思います。ありがとうございました。

事業承継について(3)

事業承継の障害になり得る制度として,「遺留分」という制度があります。相続人の生活保障などの趣旨で,最低限の相続を受ける権利が与えられており,これを遺留分制度と呼びます。

事業承継を円滑に進めるためには,経営の承継のため,後継者に,株式や事業用資産を集中させることが望まれます。遺言等の活用も考えられます。しかし,先代がいくら財産を後継者に移転させても,他の相続人が,遺留分減殺請求をすることで,株式等の財産が分割され,安定的かつ円滑な事業承継を行うことができなくなる可能性があるのです。

また,ここでも,株価の上昇が問題になり得ます。後継者の貢献によって,会社の業績が向上すると,自社の株式の評価額も上昇します。先代である被相続人の遺産に自社株が含まれていると,その評価額は相続開始時の価額になります。生前に株式を贈与していても,特別受益として相続財産に持ち戻されれば同様です。自社株の相続税評価額が上昇することで,相続財産全体の評価額が上昇すると,結果的に,その上昇分は,遺留分の上昇につながってしまうのです。後継者が経営努力をすればするほど,遺産分割時には自分にマイナスとなって跳ね返ってくるわけで,逆のインセンティブとなりかねないのです。

こうした不都合を介するため,経営承継円滑化法により,民法の特例を定めています。除外合意(贈与等により取得した自社株式を遺留分算定の基礎財産から除外する制度),固定合意(生前贈与株式の価額を当該合意時の評価額であらかじめ固定できる制度)について定めています。ただし,これを利用するには,推定相続人全員の合意が必要など,要件が厳格で,使い勝手が悪いなどと批判もされているようです。

人形供養祭&みんなのマルシェ in 豊前

本日,人形供養祭&みんなのマルシェ in 豊前 が,JAやすらぎ会館で開催されました。豊前も,マルシェの開催は,多いんですよ。この1年間で,一市三町,いろいろなところのマルシェを見に行って,勉強させていただいています。

いつも,風知草のカレーを食べたい!と思っているのですが,行くのが遅いのか,売り切れで残念な思いをしています。少し距離はありますが,お店まで食べにきてほしいということでしょうかね(笑)。

髙瀬事務所による「終活」相談会も開催されていました。安心して備えができる,非常に良い企画だと思います。

豊前市でもいろいろとイベントが行われています。より多くの人に,豊前市を楽しんでいっていただけたらと思います。 enter image description here enter image description here

憲法とは何かを考えるー最近の憲法政治をふりかえりつつ

本日,憲法市民集会@北九州弁護士会館において,「憲法とは何かを考えるー最近の憲法政治をふりかえりつつ」というテーマで,九州大学法学部教授・南野森先生より,ご講演いただきました。南野先生は,AKB48とコラボした「憲法主義」という著作で名を広めた憲法学者です。私も,拝読させていただきました。非常にわかりやすくも,教科書的な議論ではなく,最近のトレンドにあわせた話しぶりが印象的です。講演内容も,大変示唆に富むものでした。

安倍首相のあゆみについて,さかのぼって振り返ってみましょう。安倍首相は,従前より,「この国を守る決意」(2004年1月)という著作の中で,憲法9条を変えなければならないと主張していました。翌月の「論座」インタビューでは,集団的自衛権を認めないといけないという主張もしていました。集団的自衛権は認められないというのは,これまでの政府の一貫した解釈だったため,結局,憲法9条を変えないと,集団的自衛権は認められないことになります。9条改正は,安倍首相の悲願だったわけです。しかし,安倍首相が,当初首相になった際には,法律のエキスパートがつどう内閣法制局が,従前どおり,自衛隊は必要最小限度の実力を有するにすぎず戦力にはあたらないし,集団的自衛権は認められないという解釈を貫徹したため,諦めざるを得なかったのです。その後,第2次安倍政権は,とりあえず(突然?)96条改正論を持ち出しましたが,樋口陽一先生はじめとする護憲派・小林節先生はじめとする改憲派のいずれからも一斉に反対を受け,断念。これに懲りたかと思いきや,その後,安倍首相は,革命ともいうべき行動に出ます。これまでの慣行に反し,内閣法制局長官に,(安倍首相の息のかかった(?))小松一郎駐在フランス大使を任命したのです。つまり,9条・自衛隊の解釈を堅持してきた内閣法制局のクビを挿げ替えたのです。安倍政権は,保守的といわれますが,やっていることは全然保守らしくない。その後,安倍政権は,いとも簡単に,集団的自衛権行使容認の憲法解釈変更閣議決定(2014年7月1日)をしてしまいます。憲法のなかでも,非常に重い9条につき,このように簡単に解釈変更できてしまうと,憲法の規範力の低下につながります。最近でも,野党(少数派)に内閣に対する武器を与えた憲法53条(臨時国会の召集)について,2回も無視されているような現状があります。つまり,憲法が国を縛る力が弱まってしまうのです。もし,本当に,自衛隊や集団的自衛権の問題に切り込もうとするのであれば,国民の理解を得たうえ,きちんとした憲法改正の手続きによるべきなのであって,やり方が非常によろしくない。こうした問題意識があって,当初は躊躇していた「アイドルとのコラボ」という企画に対し,「むしろこれは多くの人に憲法を知ってもらい,考えてもらうチャンスだ」として,「憲法主義」が生まれたのだそうです。

先生は,憲法の特性として「憲法には罰がない」というお話もされていました。たとえば,道路交通法には,交通ルールが種々書かれており,赤信号では止まらないといけないし,速度超過は許されません。違反すると罰金を取られたり刑事罰が科されたり,免許の点数が引かれたりなどのペナルティがあります。一方,憲法は,国が守るべき規範ですが,国が憲法に違反した場合も,特にペナルティの定めはありません。憲法はこれを守らないなどということを予定していないということでしょうが,実際,憲法を平気で守らないということが横行してしまうと(さきの憲法53条の例も参照),どうしようもありません。憲法は,為政者がこれを守るという善意によって支えられているのであり,これがなくなると,憲法に書かれている理想も,絵にかいたモチになってしまいます。日本の裁判所は,違憲立法審査権(憲法81条)という強力な権限を与えられていますが,戦後違憲判決は10ほどしかなく(諸外国に比較して極端に少ない),そんななか裁判所が初めてくだした違憲判決(尊属殺重罰規定違憲判決)においては,1973年の判決でありながら,削除の1995年まで30年近くも放置(無視?)された状態が続いていたのであり,裁判所の判決さえも従わないという事態が生じると,本当にどうしようもない状態になります。

では,どうやって,為政者に憲法を守らせるのか。憲法12条は,「国民の不断の努力」によって,自由・権利を保持しなければならないとされていますが,国民が意思によって歯止めをかけたり,国民のサポートで裁判所の判断が為政者を動かす力となったり,為政者が憲法を守る原動力になったりします。いまこそ国民が,憲法を知り,議論し,改憲をすべきか否か,この国がどのような方向に向かうべきか,見極めていく必要があるのではないかということでした。

今回の講義で,憲法につき考える良いきっかけをいただけたと思いますので,さらに知憲・論憲を重ねていきたいと思います。

ちなみに,先生の最新の著作,「10歳から読める・わかる いちばんやさしい 日本国憲法」も購入しました。これは,わかりやすく記載しなおした,憲法条文の逐条解説本になっています。こちらも勉強させていただきたいと思います。

事業承継について(2)

事業承継に関する記事の2回目です。

10月6日の日経新聞の1面では,「大廃業時代の足音」「中小『後継者未定』127万社」という見出しの記事が掲載されていました。後継者難から会社をたたむケースが多く,廃業する会社のおよそ5割が経常黒字なのだそうです。いかに後継者探しが難しいか,日本の法制の壁が厚いかがわかると思います。

中小企業庁は,小計する経営資源には,①株式や資金などの一般的な資産,②経営権や後継者教育などの人的資産,③取引先との人脈や従業員の技術・ノウハウ,顧客情報などの知的資産-の3つがあると指摘します。社内外でこれらを「見える化」して,次世代に円滑に準備すべきだと呼びかけています。しかし,これがなかなか難しい。事業承継に関する問題意識をもつこと,日々の経営の中で承継についても考えること,税制や金融,予算などを総動員して,具体的に検討を進めること,といった諸点は,多忙な経営者にとって,頭が痛いながらも十分に検討する余裕がないのかもしれません。また,検討をしようと思っても,これまで一般的だったといえる親族内承継が難しい事案も多くなってきており,社内承継又はM&Aを検討するも,なかなか適切な人材が見つからないというケースが多いです。承継者をみつけたら,複雑な法制のなかで,これをスムーズに行うための手続を検討しなければならず,一筋縄ではいきません。

単なる財産の承継ではなく,創業者の想いの承継,ときにはそれを乗り越えていくという側面があることも意識し,少なくとも「もっと早くしておけばよかった」「対策が遅すぎた」という後悔のないよう,十分に準備をしていってほしいです。なんのために承継するのか,だれに承継するのか,どうやって承継するのか。さまざまなことを検討するため,まずは問題点の把握からはじめるとよいと思います。

検討をする中で,弁護士がお手伝いできることもあると思います。引き続き,ブログのなかでも,いろいろと記事を書いていこうと思います。

オータムセミナー

本日,本年度の司法試験合格者,及び,法曹を志すロースクール生に向け,「オータムセミナー」(@九州大学法科大学院)が開催されました。弁護士の仕事に関し,私も,講師としてお話をしました。弁護士のキャリアは様々です。後進の方々も,これからの活動に夢を膨らませているところと思います。キャリアの1例として,私の弁護士としての歩みをご紹介させていただき,豊前についてもお話をしたところです。私は,「法の支配の国民的浸透」を目指し,弁護士過疎偏在問題に取り組む,というわかりやすいテーマをもって弁護士活動にあたっていますが,これらを実現するためには,当然,実力を付けていく必要がありますから,どのような心構えで,どのように業務にあたっていったか,ご紹介させていただきました。少しでもお役に立てば幸いです。そして,豊前にも興味をもってもらえればなと思います。

なお,セミナーで,司法制度改革審議会の意見書についても,少し言及しましたが,勉強になると思いますので,時間があればぜひご一読いただきたいなと思いました。

さて,オータムセミナーでは,大ベテランの八尋光秀先生の講演も拝聴することができました。八尋先生は,高隈事件,三井三池有明鉱火災訴訟,ハンセン病国賠訴訟,薬害肝炎訴訟…などなど,いくつもの著名事件を経験されており,そうした事件のお話をうかがうことができたのはもちろん,私が感銘を受けたのは,弁護士法1条にかかわるお話でした。弁護士法1条は,弁護士の「使命」として,基本的人権の擁護と,社会正義の実現をかかげています。「使命」とは何か?先生の定義では,「いったんかかわると,逃れられない,重大な任務」とのことです。自営業者としての弁護士には,労働基準法の適用もなく,当該「使命」のため,力を尽くさなければなりません。これから弁護士を目指す人は,そのことをよく考えて,弁護士になるかどうか検討するよう,メッセージがありました。たくさんの集団訴訟を経験した先生ならではのお話もいただけました。弁護士法1条に直結するような事件は,いわば100年後の正しさを求めて提訴するようなもので,1人でやっては負ける,集団でやって,「いま」その正しさを,裁判所に訴えていかなければならないのだとのことでした。その当事者・依頼者の現実(リアリティ)を追求し,裁判所を説得していくことが必要だとも述べておられました。私のこれからの弁護活動においても,常に意識しておきたい言葉です。

一部は講師という立場での参加でしたが,私にとっても大変貴重な機会をいただけたと思っています。ありがとうございました。

事業承継について(1)

事業承継・相続対策などが注目されています。地方では,特に,問題の根が深いと思います。ということで,これから,何回かにわけて,記事を書いてみます。

事業承継ということばには,さまざまな意味が含まれていますが,私が理解するに,大きく,2つの問題があります。①適切な後継者の確保・選定・育成にかかわる問題。②資金繰りにかかわる問題。

経営者が,①自分の眼鏡にかなう後継者に引き継がせたいと思うのは当然です。その意味で,はやくから承継を見据えて,じっくりと,後継者を確保・選定・育成することが大切です。ただし,経営者が,バリバリの現役時代に,引退後の話を考えるのは,気乗りがしないという場合もありましょうし,あまりにはやくから,全面的に承継の話をすると,経営者自身についても,社員についても,その士気にかかわりますので,難しいところです。それでも,一般的に,はやくから,考えておくほうがよいということはいえます。経営者と後継者で,経験値が違うのは避けられないため,伸びしろがあるかどうかという観点からの判断が必要で,育成の観点が重要になってきます。経営者の帝王学を学ぶには,それなりの時間が必要でしょうから,はやくから検討しておくことが肝要です。一方,あまりにはやくから承継を検討して対策もしたが,その後,やはり経営者の眼鏡にかなわないということで,経営者と後継者の間で喧嘩になるケースもありますので,なんとも難しいものです。

②巷で事業承継対策というと,この部分,相続税等の対策を指すことが多いです。中小企業の事業承継においては,経営者の資産が,自社株,事業用不動産などで構成されており,現預金の比率が少ない場合もまれではありません。仮に,相続により,事業に必要なこれらの資産を引き継ぐという場合,後継者が適切にこれらの財産を引き継げるのかという問題と,後継者が相続税を支払えるのかという問題が生じます。相続税は,現金納付が原則ですので,納税資金の確保が課題になるわけです。

これからの記事連載において,これらの内容について,適宜深めていきたいと思います。