私(西村幸太郎)の一連のブログ記事です。私がどういう人間なのか、どういう活動をしているのか、どんなことを考えているのか、どんな知識やスキルを持っているのか、信頼に足る弁護士か、などなど、たくさんの疑問をお持ちの方もおられると思います。そのような方々は、是非こちらの記事を御覧ください。

円満調停について

私が扱う業務のなかで,男女関係に関する業務,たとえば離婚調停や離婚訴訟なども,メインの業務のひとつです。

これら業務においては,個人とは,夫婦とは,親子とは,性とは,家族とはといった,人間の営みの根幹にかかわる部分を取り扱います。時代の動きとともに考え方も変わっているところであり,奥深い問題です。

弁護士が離婚事件を扱っていると,①法的に離婚できるかどうか,②親権や面会交流等,子どものことについてどうするか,③財産分与等,お金の面についてどうするか,といった点を整理していって,いったんは一緒になったご夫婦を,再び個々の生活として再スタートするための支援をしていくことが多いわけですが,弁護士は決して離婚させるために存在するものではありません。確かに,弁護士に委任するような事案は,相当にこじれていることが多いですので,離婚に進む割合が圧倒的に多いですが,たとえば夫婦関係調整調停の結末は離婚に限らず「円満調停」という結末だってあり得るわけでして,実際にそのような経験もございます。人の心ですから,揺れ動いて当然です。数は少ないにしても,私も最近数件の円満調停を経験し,思うところがありましたので,記事にしてみることにしました。

弁護士は,ご依頼者様の利益を尊重いたします。私は,「その人にとっての最大の利益」が大事だと思っていますので,その方が迷っていればじっくりとお話をお聴きし,決して結論を急がず,しかしその方が気になっている・不足している知識については,問われればしっかりと補うという役割を果たしていきたいと思っています。とはいえ,弁護士は,法的な解決,ことに財産関係の清算に関する処理には強いと思いますが,円満調停を目指すにあたって,どのようにすれば幸せな家庭を築けるか,問題が再燃しないようにできるかなどについては,法的な物差しでスパッと解決できるような問題ではなく,何をどこまで弁護士としてサポートできるのか,非常に悩ましいところです。特に,DV事案等,生命・身体の危機等が切迫している場合などについては,本人の意向に寄り添いつつも,その意向について客観的な状況に即したものになるように働きかけるべきと思われる場面もあるわけでして,対応は容易ではありません。

離婚に誘導するようなことも,修復の途を閉ざすようなこともしたくありませんが,ご依頼者様が弁護士に求めているニーズには応えたい。実際に,円満調停を目指す際には,「弁護士さん,やり直したいという気持ちもありますが,不安な気持ちもあります。どうしたらいいでしょうか。」「私は家族関係を修復したいと思っていますが,家族には反対の意見をもっている人もいるみたいです。何とかうまくできませんか。」といった質問もよくあります。弁護士の主観的なアドバイスが,変な方向に向かうことになってしまうのは避けたいですが,せっかくアドバイスを求められているのに,何も答えないのも心苦しい。非常に悩ましい問題です。ほかに,「正直,別れたい気持ちは強いですが,生活も大事ですので,今回は私が折れます。」といったやや後ろ向きなお気持ちを話される場合もありますが,このような場合,何がご依頼者様の利益なのか,非常に悩まざるを得ません。もちろん,ご依頼者様の意向に最大限添うように進めていくわけですが,(円満に解決する上で)よりよい解決はないかという悩みも尽きないところです。

こうした悩みを背景に,少しでも付加価値を付けられればと思い,家族関係にまつわる心理系の勉強も始めました(具体的に形になったら改めてご報告いたします。)。

ここでは,離婚を考えた場合に,離婚という結論を出す前に,考えていただきたい視点について,書いてみたいと思います。

まず,女性の場合。

やはり,離婚後の生活設計は重要です。生活費を稼ぐだけの職に就いているか,または就くところができるか。仮に離婚後は無職でも不動産賃貸や年金などの定期収入のほか,預金はあるか。財産分与,慰謝料,年金分割の見込みがあるかなどが重要になると思います。こうした経済面の考慮しつつも,離婚して独りになって生活しても,精神的に苦痛でないか。離婚し世間体が悪くなっても気にすることがないか。離婚した結果,絶対に後悔しない自信があるか,などといったことを考えてみてください。これは個人的な意見ですが,離婚を選択するのであれば,「離婚して必ず幸せになってみせる」という確固たる意思を持つことが重要と思います。

次に,男性の場合。

男性の場合,経済力うんぬんというより,足元の生活にどれだけ支障が生じ得るかということが目下の課題になることが多いと思います。炊事,洗濯,生活費の支払関係などをすべて自分でこなすことができるのか。親の介護が必要になった時,責任をもってそれに対応することができるのか。別れて養育費,財産分与,慰謝料を妻に払っても,経済的に余裕があるか。こうした点が問題になりやすいと思います。前半部分は,妻お家政婦のように考えているのか!と怒られそうですが,むしろどれだけ妻に助けてもらっているのかを自覚する機会をもつべきではないかということです。また,会社にもよるでしょうが,まだまだ日本の企業が,従業員の私生活にまで完全に配慮できているとは言い難い面は否定できないでしょうから,こうした現実を踏まえ,自身の勤務先との折り合いがつけれそうかどうかなども検討をせざるを得ないと思われます。生活面についてある程度検討出来たら,以下も検討してみましょう。離婚という世間体のまずさが,出世を阻むようなことはないか。又は阻むことに抵抗はないか。離婚して独りになっても食生活に気を付け,身だしなみもきちんとできるか。離婚して独りになっても,何のために働くかなど,自分なりの生きがいを見つけることはできるか。

私もさらに考えていきますが,ご参考ください。

以下は,どちらかの立場で活動する弁護士としては,少なくとも事件処理の際は,表立って言うことはできないのかもしれませんが…

「離婚は結婚の●●倍も大変だ」とはよくいったもので,離婚事件を扱う弁護士としては,離婚がいかに大変かというのも身にしみて感じています。やむなき事情でどうしてもさよならしなければならないという場合には,(理想論と言われるかもしれませんが,)ぜひとも,お互いに幸せになれるような,前向きな離婚を目指してほしいと思いますし,夫婦関係を修復するという道も立ち止まって考えていただくことも十分にあり得ると思います。

最も身近な人間の営みであるがゆえ,深く,難しい。そんな離婚事件ですが,今後も研鑽を深めて頑張っていきたいと思います。

DV パンデミック

昨日(4/19)の西日本新聞16版2面。「DV パンデミック」というセンセーショナルなタイトルが目を惹きました。新型コロナウイルス感染拡大に伴う外出制限により,DVが世界で急増しているとのことです。国連も警鐘を鳴らしています。

日本でも,DV相談のためのサイトが整備されるなど,対応が進んでいます。

我々法曹は,こうした問題に対応できるだけのノウハウを持っているわけですから,適切に対応できるようにしたいものです。

そもそも,DVとは,親密な関係における一方パートナーから他方パートナーに対する暴力のことです。身体的暴力,性的暴力,経済的な暴力,精神的な暴力など,さまざまな種類があります。加害者側にまま見られる行動として,①暴力を正当化,否定または過小評価しようとする,②暴力の原因が被害者にあったと主張して被害者を非難する,③非常に冷静で関係者には協力的であるかのごとく装う,④被害者について公的機関に不利な通告をしようとする,などの特徴が認められ,こうした特徴を踏まえた対応も必要になってきます。

DVに対応するにあたって,重要な役割を担うのが,配偶者暴力相談支援センターです。保護命令を申し立てる要件に,同センターか警察に対し,相談等をしておかなければならないというものがありますから,その意味でも重要です。警察の生活安全課に相談するのもよいでしょう。

DVから離れるには,物理的に距離をとるのが最も有効でしょうから,家を出ることを検討することになりますが,避難するに際しては,ある程度の現金,本人や子ども名義の預金通帳と印鑑,実印,印鑑カード,クレジットカード等の財産上の重要書類や,健康保険証や常備薬,運転免許証やパスポートなどの身分証明書,暴力を受けた証拠になる写真や日記,住所録や昔の手帳,携帯電話などの加害者が被害者の交友関係を知り得るもの,子どもにとって重要なものなどはできるだけ持ち出すとよいでしょう。避難後の離婚に伴う財産分与まで見越せば,財産分与で必要になってくる各種資料(のコピー)も持ち出せるとよいでしょう。子どもがいる場合,必ず一緒に非難します。いったん子どもと離れて自分だけ避難すると,後から子どもを取り返すのは,法的にも事実上も非常に困難です。

DV対応の際,非常に有用な対応手段として,保護命令があります。簡単に言うと,「更なる」暴力により生命身体に「重大な危害を受けるおそれ」が大きいときには,被害者への接近禁止命令等の強い効果を伴って裁判所が命令を出せるという制度です。

注意点として,配偶者相談支援センターか警察に相談が必要です。宣誓供述書を作成するという方法もありますが,スピードが求められる保護命令では,相談する方がよいと思います。DVの一般論として,被害者において住所地を知られたくないというニーズがある場合が多いので,バレないように,工夫して,必要な部分は抽象化して,申立書を起案することになると思います。モザイクアプローチ(いくつかの情報を組み合わせると居場所がわかってしまう)にも気を付けます。仮に,子への接近禁止命令を求める場合は子の同意書が,親族等への接近禁止命令を求める場合は対象者の同意書が必要になるとともに,これら親族の戸籍が必要になったり,親族も警察等に相談していなければならなかったりします。つまり,求める効果が幅広くなればなるほど,収集しないといけない書類が増えるわけですが,迅速に申し立てる必要がある手続ですので,すみやかに手続がとれるよう,段取りよくやるか,本当に欲しい中核的な部分に絞っての申立てをするなど,迅速さと求める効果を比較しつつ,適切な対応をすべきです。また,仮に,裁判所の心証が芳しくない場合は,保護命令を認めない決定が加害者の免罪符とならないよう,あえて取下げも検討した方がよい場合もあります(保護命令の効力が発生する前までは取下げが可能です。)。(なお,逆に,相手方の立場としては,裁判所から保護命令という形で効果が生じないよう,相手方の方から,DV保護命令の効果と同内容の誓約書を差し入れて対応するということもあります。)

離婚調停・訴訟においても,物理的に接触しないような配慮を欠かさず,手続を進めます。

刑事事件対応としては,暴行罪,傷害罪,脅迫罪,強要罪,強制性交等罪,強制わいせつ罪,DV防止法,ストーカー規制法等について検討する必要があるでしょう。

被害者のエンパワーメントとメンタルケア等も必要になってきます。適切な対応ができるよう,研鑽を積みたいと思います。

以上のように,DV対応は,総合力,柔軟な対応,迅速力というものが求められており,非常に法曹の力量が試されている者と思います。私も,事案がきたら,適切な対応ができるよう,これまでの経験も踏まえ,今こそ適切な対応を重ねていきたいと思っています。

お子様向けサービスを導入しました

弊所にもキッズルームが!……できればいいのですけど,基本的に狭い事務所なので,個別のキッズルーム・スペースを作るのが難しい現状がありました。

とはいえ,お客様のなかには,一定数,お子様連れの方もおられます。ソファーを用意してお待ちいただけるというだけでは,少し不親切かなと感じ始めておりました。一方,キッズスペースを作ることにより,ただでさえ狭い事務所がいっそうせまくなり,ごちゃごちゃした感じを与え,動線が不便になり,他のお客様に不自由を強いるのもよくないと思いました。

そこで,キッズスペースをつくる代わりに,お子様向けのマット・遊具・オムツ等のベビーグッツなどを取りそろえ,いつでも取り出せるように常備することにしました。お子様連れの方がご来所いただけたら,即席でマットを敷いてスペースをつくり,遊具などを提供して,お話し中に遊んでもらうなどすることができるようなイメージです。

子どもの世話はしないといけない。しかし,相談もしっかり聞きたい。…そんな方に喜んでいただけるのではないかと期待して,活用していきたいと思います。

ちなみに,漫画の設置も少し行いました。法律事務所なので,業務に関係なくもない,ためになる系の漫画で,面白いものという基準で選別しています。法曹界では評価が高いと聞いてます,「イチケイのカラス」も設置しました。

新サービス,上手くいくといいなと思います。 enter image description here

↑本棚の上にしまっておき,必要に応じて取り出すようにします。

離婚の決め手はDNA

本日の日経新聞を読んでいると,「離婚の決め手はDNA」(1面)という記事が目に留まりました。

どういうことかとなかみを読んでみると,「遺伝子検査の相性判定サービス」に頼り,その相性スコアから,「(この遺伝子パターンでは)長続きするカップルは少数」という説明を受け,「生物的に合わないならと吹っ切れた。妻も納得した」といいます。

離婚の決め手となる後押し・材料になるということだと思われましたが,そのような考え方もあるのですね…

弊所では離婚事件も多いですが,離婚事件においては,離婚に至る経緯をひととおりお聴きします。このような過程を経て離婚に至るご家庭もあるのだなと,参考にさせていただきます。

不貞相手に対し,夫婦が離婚に至った責任を問うことができるか

昨日,19日,注目を集める最高裁の判例が出ました。報道など見ると,誤解されやすいようなタイトルで紹介している記事もありますのでご注意いただきたい内容です。

判例の要旨:

「夫婦の一方は,他方と不貞行為に及んだ第三者に対し,特段の事情がない限り,離婚に伴う慰謝料を請求することはできない」

これだけ見ると,「えっ,不貞しても責任問われないの??」と誤解されそうですが,この判例も,不貞相手に対し,「不貞行為に対する」責任追及をすることは,否定していません。

今回,判断の対象になったのは,不貞相手に,夫婦が「離婚に至ったこと」の責任を問えるかということです。これについては,原則としてできないということです。

離婚の原因はさまざま,それは夫婦間の問題という考え方が基礎とされているようです。

法律用語ではないですが,不貞行為などの個別の行為に対する責任追及の場面では,離婚「原因」慰謝料,離婚そのものの責任追及の場合は,離婚「自体」慰謝料などと呼ばれています。この整理で判例を理解するとわかりやすそうです。今回は,不貞相手の責任について,離婚「原因」慰謝料を追及することができるのは前提とされていると思われるが,離婚「自体」慰謝料については,原則として認められないとした,と整理ができます。

夫婦間の問題だから,離婚に伴う慰謝料については,(元)配偶者に対する責任追及によって解決するということになるのでしょうね。

実務上の影響は,これから検討され,事例の蓄積を待つとされるものと思われますが,予想されるのは,特に以下の2つの事項についてです。

まずは,損害額の考え方。これまでは,不貞相手へ責任追及する際に,夫婦が離婚にまで至っていれば,より精神的苦痛が大きいとして,比較的高額の慰謝料が認められる傾向にあったといってよいと思います。ところが,今回の判例を前提にすると,夫婦が離婚に至っているかどうかは,慰謝料算定の基礎としては考慮しないということにもなりかねません。慰謝料請求を専門に取り扱っているような弁護士にとっては,かなり痛手の判例なのではないかと思います。

次に,消滅時効との関係。理論上,離婚原因慰謝料については,その原因行為(不貞行為等)があったとき以後が,時効の起算点になりやすいかと思います。ところが,離婚自体慰謝料は,離婚そのものの慰謝料ですので,起算点は,離婚の日以後ということになりやすそうです。通常,不貞行為があって,その後,タイムラグがあって,離婚に至るという経過をたどるでしょうから,時効の関係では,離婚自体慰謝料で考えた方が,時効にかかりにくいということになりそうです。ところが,不貞相手に対しては,離婚自体慰謝料が請求できないとなると,離婚原因慰謝料の消滅時効(3年)については,より気を付けておかなければならないとなりそうです。

個人的に興味があるのが,離婚に至っている夫婦において,不貞相手と元配偶者の両方に対し,請求を掛ける場合,不貞相手には離婚原因慰謝料を,元配偶者には離婚原因慰謝料を含む離婚自体慰謝料を請求し得るように思えますが,どれくらい金額が変わってくるか,どの範囲で両者が連帯して責任を負うかですね。

実務上のさらなる事例の蓄積に注目していきたいです。

だいじょうぶ!親の離婚

子どものためのガイドブック―「だいじょうぶ!親の離婚」という本があります。

たとえば,いまや弁護士向けの離婚に関する本,より一般人向けの離婚の本は多数あります。離婚を背景として,子どもを主人公とする絵本や物語もあるでしょう。

ところが,「子どもに向けて」親の離婚について考える,教える,教材として適切な本というのは,多くないようです。本書は,もとはアメリカの本を翻訳したものですが,夫婦の離婚を解決するために,「子どもに」向けて話をすべきことがよくまとめられていると思います。アメリカと日本では制度が違うので,ラストに「子どものための解説」として,日本の制度の説明もあります。

日本の離婚調停では,夫婦が一生懸命にお互いの主張を言い合っている様子が一般的に思うのですが,どことなく子どもが登場することが少ない。裁判所も,子の福祉,子の福祉というわりには,子どもに会ったこともないのに,子どものためになるからと言って面会させようとするということがしばしばです。きちんと会って,話して,子どもともコミュニケーションをとって,夫婦子どもともに勉強をして,将来に向けて,新たに良い関係を築いていくというのが理想だと思うのですが,なかなかそうはいかないようです。しかし,弁護士として,理想を実現できるよう,さまざまな工夫を凝らして,これからも,家族の在り方を模索していかなければならないのだと思っています。

本書は,子どもに対する説示,勉強に,とても役立つツールとなり得ると思います。私も,さまざま勉強して,よりよい弁護活動につとめていきたいです。

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クレイマー、クレイマー

随分昔ですが,初めて「クレイマー,クレイマー」を観た時。誰が悪いでもなく,みなが子どものためを思って動いているのに,どうしてこうなるんだ,とやるせない気持ちになったことを,鮮明に覚えています。

(以下,ネタバレも含みますので,ご注意ください。) この映画は,英題が,Kramer vs. Kramer とされているとおり,クレイマーさんとクレイマーさんの対決,つまりクレイマー夫婦の親権(法廷)闘争を描いたドラマです。仕事に没頭していた夫は,妻が突然7歳の子を置いて出て行ってしまったため,子どもとともに新たな生活を余儀なくされます。慣れない家事,育児に孤軍奮闘しながらも,できるだけ子どもを傷つけないように気を付けながら,しかしなかなか接し方がわからずに苦しむ父親像が描かれており,同じ父親として,感じるものがあります。子どもが,「僕が悪い子だったから,ママは出ていったの?」と父親に問うシーンは,夫婦の問題を超えた,子どもの複雑な心情が描かれており,涙なしでは見ることができません。親子でぶつかり,腹を割って話し合ってから,父子に親子としての絆が生まれてきたころ。母親が,「子どものことを愛している,1番大事なものに気が付いた」として,親権を主張。望まぬ親権(法廷)闘争に発展していきます。父親は敗訴しますが,意を決して上訴を諦め,母親に子どもを引き渡そうとしたところ。母親は,「あの子の家はここよ。」と言い,子どもを引き取ることなく,しかし母として子どもに会いにエレベーターに乗ったところで,物語は終わります。子の福祉というのがいかに多義的で難しいか,そんなことを考えさせられる内容でした。

私も,この映画を見るたびに,「私は弁護士として,依頼者の利益と,そして子どもの福祉を,適切に検討できているだろうか。」と自問自答せずにはいられません。私も人の子であり,親です。あるべき家族について,常に考えさせられています。

離婚事件に挑む弁護士として,こうした原点を忘れず,最善の解決を目指して,一所懸命に事件に取り組んでいきたいと思います。

外国人と離婚

Q ベトナム人です。日本人の夫と結婚し,「日本人の配偶者等」の資格で在留しています。しかし,夫とは,離婚しようと思っています。在留資格がもうすぐ切れてしまうのですが,在留資格の更新はできますか。夫と離婚しても,日本に滞在できますか。

A 在留資格の更新には,①在留資格に該当すること,②期間更新を認めるに足りる相当な理由,が必要です(入管法21条3項)。①につき,離婚を考えている場合,「日本人の配偶者等」の在留資格該当性が問題になります。入管実務では,有効な婚姻関係があるだけでなく,同居・協力という婚姻の実質が伴って初めて,「日本人の配偶者等」にあたるとされます。別居の経緯や関係修復の意思,子の有無や家族関係・状況等を総合考慮して判断します。婚姻の実質が伴っていれば,本件でも,とりあえずは更新許可される可能性はあります。ただし,在留期間が比較的短期間(最短で6か月)とされることがあるので,注意が必要です。

実際に離婚してしまうと,「日本人の配偶者等」には該当しなくなりますので,在留資格該当性を充たしていると思われる他の在留資格への変更を検討する必要があります。一般には,「定住者」への在留資格変更を検討する場合が多いのではないかと思います。「定住者」は,法務大臣が特別な理由を考慮して居住を認める在留資格で,日本での在留期間等の生活実績を考慮して,在留資格への変更を認める場合もあります。実務上,目安として,実体のある婚姻期間が3年程度以上あり,独立して生計を営むことができ,仕事や生活面でも日本との関連性が相当程度あることが必要です。本件でも,3年程度,日本で婚姻生活を営み,独立して生計を営むことができ,日本との関連性が相当程度認められれば,定住者と認定してもらえるかもしれません。

離婚に際する生活設計

離婚の相談は多いように感じます。特に女性側からの相談の場合,よく耳にする不安として,将来の生活設計に関する不安があります。

一般的・法的に離婚で処理すべきとされる,離婚・親権・養育費・財産分与・慰謝料・年金分割/婚姻費用/DV保護命令などのアドバイスとあわせて,当事務所では,将来の生活設計に不安を抱える方に対し,たとえば,以下のような制度の紹介などもしています。

児童扶養手当,児童手当,特別児童扶養手当,就学援助,母子福祉資金,ひとり親家庭等医療費助成,寡婦・寡夫控除,生活福祉資金…

当事務所のリンク集にも,関連する項目を設けていますので,ご活用ください。

子の引渡し(人身保護請求)をめぐる問題

弁護士として仕事をしていると,ときに,子どもの親権・監護権や引渡しをめぐり,熾烈な争いをせざるを得ない場合があります。弁護士の本音としては,子どものためには,このような争いもよくないのだけど,相手方のところに子どもがいる状態もよくないから,やむを得ず強制的な手段を選択せざるを得ない,ということも多いようです。今回は,子の引渡しをめぐる問題について,考えてみます。

実務上,子の引渡しを求める手続・方法として,①家事審判(審判前の保全処分含む)(子の監護者の指定,その他子の監護に関する処分としての子の引渡し請求など),②人事訴訟(離婚訴訟等の付帯請求として子の引渡し請求),③人身保護請求,④民事訴訟(親権または監護権に基づく妨害排除請求としての子の引渡し請求(最判昭35・3・15)),⑤刑事手続(子の連れ去りが略取行為と評価できる場合に告訴等による刑事司法の介入を求める)などがあります。

従来は,③人身保護請求がよく使われていたそうですが,最高裁の判例で,この請求の要件を厳格に考える傾向があらわれてから,①家事審判(審判前の保全処分)を活用し,子の監護者指定及び子の引渡しを求める審判(審判前の保全処分)の申立てにより解決を図ろうとするケースが多いようです。

もっとも,③人身保護請求には,①審判前の保全処分にはない,迅速性・容易性・実効性という特徴を有しています。そこで,人身保護請求の要件である,「顕著な違法性」(人身保護規則4条)が認められると判断し,さきにみた迅速性・容易性・実効性の観点から実益があると判断される場合には,なお,人身保護請求を検討する意味があると思います。

具体的に検討してみます。

人身保護請求が認められるための要件は,①子が拘束されていること(拘束性),②拘束が違法であること(違法性),③拘束の違法性が顕著であること(違法の顕著性),④救済の目的を達成するために,他に適切な方法がないこと(補充性)とされています(人身保護規則4条)。

特に,問題になるのは,②③の拘束の違法性が顕著であること,という要件です。

一般的には,子の拘束を開始した経緯に違法行為があり,その違法性の程度等からただちに現在の拘束が権限なしになされていることが明らかであると認められる場合をいいます。

具体的には,判例により,場合わけをして,一定の基準が示されていますので,ご紹介いたします。

共同親権者による拘束の場合,その監護は,特段の事情がない限り,親権に基づく監護として適法と考えられます。そこで,違法性が顕著といえるための要件は,厳格になります。判例によると,共同親権者による拘束に顕著な違法性があるというためには,「拘束者が幼児を監護することが,請求者による監護に比して子の福祉に反することが明白であることを要する」とされています(明白性の要件。最判平5・10・19)。 さらに,明白性の要件に該当する場合を,明確化するものとして,以下の2つの類型が挙げられています。ⅰ)拘束者に対し,子の引渡しを命じる審判や保全処分が出され,その親権行使が実質上制限されているのに,拘束者がこれに従っていない場合(審判等違反類型),ⅱ)請求者のもとでは安定した生活が送れるのに,拘束者のもとでは著しく健康が損なわれたり,満足な義務教育が受けられないなど,拘束者の親権行使として容認できないような例外的な場合(親権濫用類型)。

他方,非親権者・非監護者による拘束の場合は,相手方にはなんら監護の権限なく拘束しているのですから,さきにみたような厳しい要件を課す必要はありません。判例は,さきの共同親権者による拘束の場合とは区別して,非親権者・非監護者による拘束の場合,「幼児を請求者の監護の下に置くことが拘束者の監護の下に置くことに比べて子の幸福の観点から著しく不当なものでない限り,拘束の違法性が顕著である場合(人身保護規則4条)に該当し,監護権者の請求を認容すべきものとするのが相当である」としています。

以上が,人身保護請求が認められる要件です。その他,手続的なところで特徴的なのは,原則として請求者は弁護士を代理人として請求しなければならない(弁護士強制主義)とされていること(人身保護法3条),被拘束者である子に代理人がいない場合,裁判所により選任された国選代理人(人身保護法14条2項,人身保護規則31条2項)が子の訴訟代理や調査活動を行うことになるとされていること,迅速に審理できるような規定がおかれていること(請求は他の事件に優先して行われる,審問期日は,請求のあった日から原則として1週間以内に開く,立証は疎明で足りる,判決の言渡しは審問終結の日から5日以内に行わなければならない,上訴期間は3日以内など)などです。

各ケースにおいて,人身保護請求の要件を満たすか否かも検討しつつ,どういった手段により解決するのが最も適切か,ご依頼者様とともに悩みながら,紛争の解決を図っていきたいと思います。