私(西村幸太郎)の一連のブログ記事です。私がどういう人間なのか、どういう活動をしているのか、どんなことを考えているのか、どんな知識やスキルを持っているのか、信頼に足る弁護士か、などなど、たくさんの疑問をお持ちの方もおられると思います。そのような方々は、是非こちらの記事を御覧ください。

行政不服審査法関連三法:処分等の求め

地域では,行政に関する相談も多いようです。

先般,行政不服審査法が改正され,それに伴い,行政手続法も一部改正されました。ここでは,行政手続法に新設された,「処分等の求め」について書いてみます。

「処分等の求め」の制度とは,書面で具体的な事実を摘示して一定の処分又は行政指導を求める制度です。

【条文~ここから~】

 第四章の二 処分等の求め
第三十六条の三  何人も、法令に違反する事実がある場合において、その是正のためにされるべき処分又は行政指導(その根拠となる規定が法律に置かれているものに限る。)がされていないと思料するときは、当該処分をする権限を有する行政庁又は当該行政指導をする権限を有する行政機関に対し、その旨を申し出て、当該処分又は行政指導をすることを求めることができる。 2  前項の申出は、次に掲げる事項を記載した申出書を提出してしなければならない。 一  申出をする者の氏名又は名称及び住所又は居所 二  法令に違反する事実の内容 三  当該処分又は行政指導の内容 四  当該処分又は行政指導の根拠となる法令の条項 五  当該処分又は行政指導がされるべきであると思料する理由 六  その他参考となる事項 3  当該行政庁又は行政機関は、第一項の規定による申出があったときは、必要な調査を行い、その結果に基づき必要があると認めるときは、当該処分又は行政指導をしなければならない。

【条文~ここまで~】

違反状態をなおすために処分を行う行政の権限,行政指導を行う行政の権限が,つねに適切に行使されるとは限りません。このような権限を行使するには,違反状態の存在を,行政が,知っていないといけませんが,行政のインフラは限られており,規制の対象が広く追いつかなかったり,そもそも違反事実を認めるのが技術的に簡単ではない場合には,行政のみでは,違反事実にかかる情報を,十分に取得できないということが起こり得ます。その結果,いわゆる,「執行の欠缺」というべき事態(適切な執行が欠けている状態)が生じていました。さらに,たとえ違反事実を知っていたとしても,黙認してしまったり,法律の根拠に基づかない弱弱しい行政指導を繰り返すばかりで,有効な是正策を講じず,違反状態の継続を許してしまう事態が生じないとも限りません。こうした問題意識から,法令違反の事実を把握している者からの申出をきっかけとして,行政が必要な調査をし,その結果,必要があると認めるときに違反事実を是正するための処分又は行政指導をする制度をつくることで,行政手続法の目的である「行政運営における構成の確保と透明性…の向上を図り,もって国民の権利利益の保護」をはかろうとしたというものです。

行政不服審査法ではなく,行政手続法に定められたのは,この「処分等の求め」は,「何人でも」申し出ることができる制度であり,申出人個人の権利利益の侵害を要件とする行政不服審査とは一線を画すると考えられたからです。

非申請型(直接型)義務付訴訟などの制度が整備されていたとはいえ,訴訟要件も本案勝訴要件も厳しい状況でしたから,このような柔軟な制度ができたのは,喜ばしいことではないかと思います。

なお,処分の求めと行政指導の求めは,両方を求めることも可能です。申出人の氏名,住所等の個人情報は,個人情報保護法により,保護されます。

ただ,処分等の求めの制度は,あくまで,職権発動を促す制度と位置付けられているに過ぎません。この点は,再考の余地があると思われます。このあらわれとして,申出人に,申出を受けた調査結果や是正措置について,通知を求める権利を与えてはいません。実務上,通知を行うべきと思いますが,法律上も,明確に書いておくべきだと思います。

以上,簡単でしたが,制度の紹介でした。活用例を積み重ね,行政の良質なサービスの提供につながればよいなと思います。

子の引渡し(人身保護請求)をめぐる問題

弁護士として仕事をしていると,ときに,子どもの親権・監護権や引渡しをめぐり,熾烈な争いをせざるを得ない場合があります。弁護士の本音としては,子どものためには,このような争いもよくないのだけど,相手方のところに子どもがいる状態もよくないから,やむを得ず強制的な手段を選択せざるを得ない,ということも多いようです。今回は,子の引渡しをめぐる問題について,考えてみます。

実務上,子の引渡しを求める手続・方法として,①家事審判(審判前の保全処分含む)(子の監護者の指定,その他子の監護に関する処分としての子の引渡し請求など),②人事訴訟(離婚訴訟等の付帯請求として子の引渡し請求),③人身保護請求,④民事訴訟(親権または監護権に基づく妨害排除請求としての子の引渡し請求(最判昭35・3・15)),⑤刑事手続(子の連れ去りが略取行為と評価できる場合に告訴等による刑事司法の介入を求める)などがあります。

従来は,③人身保護請求がよく使われていたそうですが,最高裁の判例で,この請求の要件を厳格に考える傾向があらわれてから,①家事審判(審判前の保全処分)を活用し,子の監護者指定及び子の引渡しを求める審判(審判前の保全処分)の申立てにより解決を図ろうとするケースが多いようです。

もっとも,③人身保護請求には,①審判前の保全処分にはない,迅速性・容易性・実効性という特徴を有しています。そこで,人身保護請求の要件である,「顕著な違法性」(人身保護規則4条)が認められると判断し,さきにみた迅速性・容易性・実効性の観点から実益があると判断される場合には,なお,人身保護請求を検討する意味があると思います。

具体的に検討してみます。

人身保護請求が認められるための要件は,①子が拘束されていること(拘束性),②拘束が違法であること(違法性),③拘束の違法性が顕著であること(違法の顕著性),④救済の目的を達成するために,他に適切な方法がないこと(補充性)とされています(人身保護規則4条)。

特に,問題になるのは,②③の拘束の違法性が顕著であること,という要件です。

一般的には,子の拘束を開始した経緯に違法行為があり,その違法性の程度等からただちに現在の拘束が権限なしになされていることが明らかであると認められる場合をいいます。

具体的には,判例により,場合わけをして,一定の基準が示されていますので,ご紹介いたします。

共同親権者による拘束の場合,その監護は,特段の事情がない限り,親権に基づく監護として適法と考えられます。そこで,違法性が顕著といえるための要件は,厳格になります。判例によると,共同親権者による拘束に顕著な違法性があるというためには,「拘束者が幼児を監護することが,請求者による監護に比して子の福祉に反することが明白であることを要する」とされています(明白性の要件。最判平5・10・19)。 さらに,明白性の要件に該当する場合を,明確化するものとして,以下の2つの類型が挙げられています。ⅰ)拘束者に対し,子の引渡しを命じる審判や保全処分が出され,その親権行使が実質上制限されているのに,拘束者がこれに従っていない場合(審判等違反類型),ⅱ)請求者のもとでは安定した生活が送れるのに,拘束者のもとでは著しく健康が損なわれたり,満足な義務教育が受けられないなど,拘束者の親権行使として容認できないような例外的な場合(親権濫用類型)。

他方,非親権者・非監護者による拘束の場合は,相手方にはなんら監護の権限なく拘束しているのですから,さきにみたような厳しい要件を課す必要はありません。判例は,さきの共同親権者による拘束の場合とは区別して,非親権者・非監護者による拘束の場合,「幼児を請求者の監護の下に置くことが拘束者の監護の下に置くことに比べて子の幸福の観点から著しく不当なものでない限り,拘束の違法性が顕著である場合(人身保護規則4条)に該当し,監護権者の請求を認容すべきものとするのが相当である」としています。

以上が,人身保護請求が認められる要件です。その他,手続的なところで特徴的なのは,原則として請求者は弁護士を代理人として請求しなければならない(弁護士強制主義)とされていること(人身保護法3条),被拘束者である子に代理人がいない場合,裁判所により選任された国選代理人(人身保護法14条2項,人身保護規則31条2項)が子の訴訟代理や調査活動を行うことになるとされていること,迅速に審理できるような規定がおかれていること(請求は他の事件に優先して行われる,審問期日は,請求のあった日から原則として1週間以内に開く,立証は疎明で足りる,判決の言渡しは審問終結の日から5日以内に行わなければならない,上訴期間は3日以内など)などです。

各ケースにおいて,人身保護請求の要件を満たすか否かも検討しつつ,どういった手段により解決するのが最も適切か,ご依頼者様とともに悩みながら,紛争の解決を図っていきたいと思います。

「いまこそ知りたい!みんなでまなぶ日本国憲法」

明日の自由を守る若手弁護士の会が,「いまこそ知りたい!みんなでまなぶ日本国憲法」という本を出しています。

この本は,全3巻で,憲法の話を,イラストやマンガを多用して,とてもわかりやすく話したものです。「1 立憲主義 国民主権」「2 基本的人権の尊重」「3 平和主義」という形で,社会の教科書にも出てくる3のテーマについて,1テーマ1冊ずつ,解説しています。 私は,学生時代,憲法を勉強するのが好きで,恩師ともいろいろと議論を交わしていました。ニュースで憲法問題がホットな問題として取り上げられる今日この頃ですが,学生のときほどは勉強していないな~と思っていたところ,新しく本が出るということで,購入してみたものです。子ども向けの本だな…と思っていましたが,年表も多用されていたり,新聞記事が貼り付けられていたり,外国の様子が紹介されていたり(タイバンコクの戒厳令,ヘイトスピーチとルワンダ大虐殺など),社会現象を巻き起こした書籍が適宜紹介されていたり(「蟹工船」「ぼくたちは なぜ、学校へ行くのか」など),極めつけは「憲法体操」をラッキィ池田さんが踊っていたり(?!)と,随所に工夫をしながら,とても濃い内容が記されていました。これまできちんと理解できていなかった部分も,わかりやすく解説されていました。大人も一見の価値ありの良書だと思いました。

法教育の機会をいただけた場合,こうした本も参考になると思いましたし,自分の子どもを含めたたくさんのお子さんたちに,読んで聞かせてあげたいなと思いました。

あとは,3巻9000円という値段だけが,どうにかなればいいなと思いました…

みなさま,ぜひ1度目を通してみてください。

インターフォンを設置しました

事務所に,インターフォンを設置しました。そのため,活動時間内においても,基本的には,扉はすべて施錠した状態にさせていただいております。

これまでの状態でも,相談時間の調整などは行っておりましたので,特に不都合は生じておりませんでしたが,さらにご依頼者様のプライバシーを守るため,念のため,設置させていただきました。セキュリティの向上という狙いもあります。ご訪問いただく際,今まで以上に安心していただけるように,配慮させていただいたものです。また,こちらの方で扉を開けて,お客様をお迎えしたいという思いもありました。 一方で,いちいちインターフォンで呼び出しをするのにひと手間かかるようになったというお声もいただきました。お呼び出しいただいた際は,迅速にお迎えにあがるようにしております。インターフォン設置の趣旨は,すでに述べたとおりですので,ご理解とご協力のほど,なにとぞよろしくお願いいたします。

当事務所は,少しでも市民のみなさまがご利用しやすくなるよう,最善を尽くしてまいりますので,どうぞよろしくお願いいたします。

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DVに関して

御幣があるかもしれませんが,地方において,DVの問題は多いと耳にします。都心部でお過ごしの夫婦のうち片方が地方に逃げてきたり,地方の実家に逃げ込んだりする例というのもあるようです。

離婚とセットで論じられることも多いですが,たとえば,離婚は家庭裁判所の管轄であるのに対し,DV保護命令は地方裁判所の管轄であるなど,裁判所でもワンストップの体制はとっておらず,法的には,必ずしも, ,家庭のこととひとくくりにして扱われているとはいえません。しかし,紛争の解決にあたる実務家は,もちろん,生活全般の立て直しなどもにらんで,さまざまな目配りをした上で,全体的な解決の途を探らなければなりません。

法律家として関わりが深いのは,さきに見たDV保護命令の手続でしょう。一般的な解説などは,いろいろな情報が出回ってます(当事務所のHPでもリンクしてますが,内閣府男女共同参画局の「配偶者からの暴力被害者支援情報」のページは,とても参考になります。)。ここでは,制度の解説以前の,DV保護命令を利用するメリットについて考えてみます。

保護命令制度は,配偶者や生活の本拠を同じくする交際相手からの暴力を防止するため,加害者が被害者に接近すること等を裁判所の命令で禁止し,更なる暴力を振るわれることを防いで被害者の安全を図るものです。これが直接的な効果といえるでしょう。

ただ,実際のところ,裁判所が取扱件数としても,DV保護命令の件数は,多くはないそうです。そこまでしなくとも相手方に所在がわからないように別居すればよい,結局は保護命令(裁判所)よりも警察の対応がものをいうのではというところがあるのかもしれません。保護命令の効果は,刑事罰による制裁をちらつかせることであって,どうしても接近等を物理的に封じることまではできないのではという懸念が残るということもあるのかもしれません。そもそも論として,家庭の問題に裁判所という国家機関を介入させて進めるのに,抵抗を感じるということかもしれません。 しかし,場合によっては,むしろ,第三者を介入させることによって,無理矢理解決にもっていかなければ,解決にならないときもあります。怖がっている被害者にとっては,裁判所が手助けしてくれたという安心感を取り戻すことにも,大きな意味があるでしょう。親族にまで手が伸びていれば,それを止める意味もあると思います。警察も,保護命令がある方が,「民事不介入」「事件が起こってからでないと」などといった消極姿勢を封じ,積極的に動きやすくなるでしょう。さらに,離婚の協議/裁判を進める上でも,DV事案において,保護命令が出ているかどうかは,非常に重要になってきます。裁判所は保護命令の有無を確認しますし,保護命令があれば暴力はあったという前提で話が進められます。結果として,事実の存否に関する紛糾を避け,早期の解決に至ることもできるかもしれません。子どもとの面会交流の可否についても,保護命令の存否は,大きく影響するでしょう。

DV保護命令の根拠法であるDV防止法は,2001年成立,2004年・2007年・2013年改正…と成長している法律といえます。日々,現実の被害などに耳を傾け,柔軟に対応し,進化を続けているものともいうことができるでしょう。 これを利用する法律家も,法律家だからといって法律論だけにとらわれず,広い視野をもって,依頼者の全体的な利益を考えながら,一方,プロとして,法的な観点からの道筋立ても怠ることなく,依頼者に寄り添って,活動を続けていきたいと思います。

※DV保護命令については,命令の内容・要件がいろいろと定まっていること(あらかじめ書式をしっかりさせておけば見落としがない),すばやく審理したいという要請があること(見慣れた書式の方が読みやすい)などからか,裁判所としても,裁判所書式で申し立てることを推奨していると聞きました。リンクに裁判所書式もアップしているので,必要がある方はご参照ください。

債権回収の工夫

中小企業のよくある悩みの1つに,「相手方が,なかなかお金を払ってくれない…」というものがあります。この手の悩みは,弁護士としても,悩ましいところがあります。というのも,弁護士は法律にのっとって仕事をするわけですけれども,法的な正攻法によると,以下のように,時間も労力もお金もかかってしまうからです。しかも,債権回収は「はやくやればやるほど回収可能性が上がる,遅れれば遅れるほど回収可能性が低くなる」という経験則があるので,正攻法によると,時間だけがかかって,結局回収ができない…という場合も,少なくないと思います。

【債権回収の正攻法】 ①請求書を送る,②内容証明郵便,③(①②に応じなければ)支払督促・少額訴訟・通常訴訟,④(①~③と併行して,)仮差押え・仮処分による執行財産の保全,⑤(③の相手方の対応に応じて)必要な主張立証,⑥(⑤の相手方の対応と裁判手続の結果に応じて)控訴,⑦(決定や判決が確定したら相手方の対応に応じて)強制執行,⑧(⑦で強制執行が空振りに終われば)さらに強制執行,⑨以後⑧を繰り返す…

では,どんな対応をすればよいか。工夫はいろいろですが,少し紹介させていただきます。

【事前の工夫など】 契約書をつくる。期限の利益喪失条項を盛り込むなど,有事の際の対応を検討しておく。公正証書にする(金銭債権については,いきなり強制執行手続ができるようになるので,面倒な裁判手続を避けられる)。担保(抵当権,質権,連帯保証など)を取る。もちつもたれつでこちらも相手からの債務を負っておき,いざとなったら相殺できる状態を保っておく。時効に気を付ける。時効管理のために準消費貸借契約の締結も考えておく。

【日頃の心がけ】 日頃から債務者の情報に気を付けておく。債務者ファイルを作成し管理する。取引基本契約書→個別契約書→見積書→注文書→注文請書→納品書→受領書→請求書→領収書 その他 などといった,基本的な資料につき,きちんと整理しておく。

たとえば,相手方が,「利益をあげた」という情報を得た場合,「そうすると,債権回収は安心だな」とみるのか,「利益をあげたということは,先行投資でいろいろとお金を使ったりしてるかも。少し気を付けねば」などとみるかで,捉え方がだいぶ異なってくる。情報を多角的に分析する。

【有事の際】 まずは相殺できないか考える。こちらも債務を負っているのであれば,相殺が最も簡単・確実。場合によっては,債権譲渡や債務引受についても検討する。債権譲渡/債務引受と相殺との合わせ技一本という工夫もある。お金で返せないなら代物弁済は検討できないか。相手方が争わなさそうだったら,支払督促でこちらの本気度を伝えつつ,任意の支払いを促し,将来の強制執行も見据えてはどうか。財産があるなら保全を行いつつ正攻法も検討。財産をもってそうなのにのらりくらりやって事業を続けている債務者に対しては,場合によっては,債権者による破産申立て(破産法18条)をちらつかせてプレッシャーをかけることも。いろいろ工夫はするが,犯罪にあたらないようにすることは気を付けないといけない。正当な債権に関する回収でも,やり方が悪いと犯罪になり得る。反社会的勢力の力を借りた回収はNG。あとあと自分の首をしめるだけである。

私は,流動負債を抱えるのが嫌なので,結構すぐに払ってしまうタイプです。債権回収のセオリーからすると,あまりよくないことなんでしょうかね。そうは思いたくないですが,そんなこと言ってるからいざという時に困るんだよと言われることがないよう,祈っています。

以上,簡単な記述に過ぎませんが,参考にされてください。必要があれば,当事務所で,債権回収につき,事前の対策・有事の対応も検討させていただきます。ご相談いただけると幸いです。

子の私立学校の費用と養育費

受験シーズンです。受験生のお子さんは悲喜こもごも,さまざまなドラマが生まれる季節です。一方,弁護士が担当する事件の中では,親の方でもさまざまなドラマが展開される場合があります。離婚協議(調停/訴訟)中で,まだまだ時間がかかりそうだけど,子どもの学費が心配。国公立に入ってもお金がかかるのに,万が一,私立に通うことになったら…。お子さんにだけは心配事をさせたくない,なんとか安心して通わせたい,という親は多いものです。それなのに,子どものためだといっても,相手方がちっとも払ってくれない。どうしよう…。今回は,そんな局面をイメージしながら,「子どもが私立学校に通い,予想外に出費がかさむ場合,養育費はどうなるのか」などといった問題を取り上げてみます。

まず,随分浸透してきたなと思いますが,一般に,養育費は,いわゆる養育費算定表により計算することが多いです(リンク集にも貼り付けてますので,必要に応じ,ご参照ください。)。しかし,弁護士は,ときに,この算定表の内容を乗り越えようと,この算定表の前提としている事実はこうだが,本件はこうだ,だから修正してこの金額にすべきだ,などと主張をしたりします。そのようなことが可能でしょうか。

前提として,算定表の計算式は,よく理解しておかなければなりません。この算定表は,もともと,少し古い文献ですが,判例タイムズ1111巻末とじ込み「簡易迅速な養育費の算定を目指して―養育費・婚姻費用の算定式と算定表の提案ー」という文献で紹介されたものです。ここに,詳しい算定式やデータが紹介されています。

この文献のデータによると,学校教育費の平均は,中学校で公立年13万4217円・私立年88万9638円,高校で公立年33万3844円・市立年76万3096円とされております。算定表は,たとえば高校生がいる家庭において,公立年33万3844円(月額2万7820円)を支出するものであることを前提に組まれているものです。そこで,子どもが私立に通う場合,実際そこではどれだけの支出があって,それが算定表の前提としている公立の金額を上回ることを主張・立証していくことになると思います。実際,これを考慮して,算定表以上の金額を認める例もあります。なお,相手方も,子どもが私立に入学することに賛成していた(反対していなかった)などの事情があれば,指摘しておいた方がよいでしょう。

ここで注意しなければならないのは,以下の点です。算定表は,養育費を払うべき人が平均の収入を得ている状態で,さきにみた公立学校の学校教育費を支払っているという状態をイメージして計算しているので,仮に,養育費を支払うべき人が平均以上の収入を得ている場合,結果として,公立学校の学校教育費を上回る額が考慮されていることになります。公立高校に通う子がいる世帯の平均年間収入864万4154円とされています。

なお,この問題とセットで論じられるのが,養育費の終期の問題です。通常,養育費は,成人までとされていますが,近時は,大学卒業(22歳)まで学校に通うのが珍しくなく,相手方が認めていたかや子ども本人の希望などの事情を考慮しつつ,22歳までの養育費を認める例もあるようです。私立高校に行ったのは,大学進学を見据えてであるなどという事情がある場合などは,このあたりもきちんと主張していくことになると思います。

以上,細かな話もしてしまいましたが,弁護士にご依頼をいただいた場合,ご依頼者様のご主張されたい子細な事情を拾い上げ,相手方や裁判所にご依頼者様の声を適切に届けるお手伝いができます。冒頭の事案では,こうした事実,法的な帰結を念頭におきながら,できるだけ早期の支払いを受けられるようにという点にも配慮しつつ,柔軟に交渉や裁判手続の活動を行っていくことになろうかと思います。

支部交流会

平成29年1月21日(土) 13:30~17:00 福岡県弁護士会館にて,毎年恒例の「支部交流会」(九州弁護士連合会主催)が開催されました。これは,裁判所支部管轄で仕事をする弁護士が,意見交換を通じて,支部特有の問題について考えていこうという会です。私の事務所の所在地である豊前市は,福岡地方裁判所行橋支部管轄です。私も,この会に参加し,いろいろと勉強させていただきました。

支部問題というのは,御幣をおそれずざっくりというと,裁判所支部のインフラが整備されていないため(例:支部に裁判官がいなくて判断をもらえない/判断が遅い、支部で労働審判を申し立てられない、調査官がいないから少年事件ができない…などなど多数)に、市民が遠く離れた裁判所本庁まで移動しなければ法的サービスを受けられない不都合に関する問題のことをさします。

まず、最高裁との協議によって、あたらしく支部でも労働審判ができるようになった長野県の会員から、どうやってそのような成果を勝ち取ったのかのご報告をいただきました。弁護士は、会内で決議をしたり、最高裁に対し意見を述べたりするが、やりっぱなしではダメだ、もっと積極的にアクションを起こしていかなければいけないということでした。耳の痛い話ですが、私も、口先だけにならないよう、活動を続けます。

後半は、支部の会員間でざっくばらんに意見交換をしました。なかでも興味深かったのは、離婚/養育費・婚姻費用に関する判断のバラつきの問題についてです。東京から赴任したある弁護士の話では,東京では,養育費を22歳(大学卒業時)まで請求するのは,当たり前だったそうです。しかし,支部に赴任すると,支部では,当然のように20歳(成人する)までとするような話をされるようです。東京の子どもは大学を卒業するのが普通で,地方の子どもは大学に行かないのが普通だとでもいうのでしょうか。私は,現在は大卒が決して珍しくない時代ですから,子の学歴,子の意欲,親の学歴,その他の事情を考え,特に問題がない場合は,22歳まで請求しています。もちろん事案によりますが,原則22歳まで,大卒の蓋然性がない場合には20歳までとすると考えているといってもよいでしょう。事案に即した結果,判断がわかれるのであればやむを得ないでしょうが,支部というだけで通常20歳までと考えられているのであれば,それはおかしな話なので,きちんと事案に即した検討を求めていくべきかなと思ったところです。養育費は,ひとまずは調停(話合い)で決することなので,相手方の意向にもよるということになるのでしょうけれども,きちんと法的な帰結は意識した上で,代理人活動をしなければなりませんね。

活発な議論があり,大変勉強になりました。ここで勉強したことを活かし,今後の業務にも活かしていきます。

「ビジネスパーソンのための 契約の教科書」

みなさまは,日々,契約書をつくっていますか。私たちの日常は,日々の買い物(売買契約)をはじめ,住居の賃貸(賃貸借契約),お仕事の関係(雇用契約,委任契約)などなど,契約で満ち溢れています。法律家の立場からは,「契約書は大事です。契約書をつくりましょう。」とアドバイスするのですが,実際,なんでもかんでも契約書をつくってられないという事情もよくわかります。さて,みなさまに使えるアドバイスをするには,どうすればよいかな…と,日々頭を悩ませているわけですが,最近読んだ福井健策「ビジネスパーソンのための 契約の教科書」がわかりやすく参考になったので,少しご紹介させていただきたいと思います。

著書は,結論として,3つの黄金則をかかげています。

①契約書は読むためにある ②「明確」で「網羅的」か ③契約書はコスト。コストパフォーマンスの意識をもつ。

著者自身は,「あまり新鮮味のない」と謙遜されておられますが,なるほどなと思ったところです。

著者の説明は,本を読んでいただければわかるので,以下は,私なりに解釈・理解したところを記しました。

①契約書は,間違っても,押印するためだけにあるのではありません。民法学者川島武宜の名著「日本人の法意識」(岩波新書)は,「我われ日本人は法律や契約を単なる建前と考える傾向が強く,よって必ずしも重視せず,実際にトラブルがあっても話し合いや人間関係で解決に至ると考えがち」であると指摘しています。日本人の考えは,和を尊ぶものとして,尊重されてしかるべきだとは思いますが,だからといって,後からなんとかなる(する)から,契約書を作らないでよいということにはなりません。むしろ,もめごとを回避したいという日本人の法意識からしても,本来,契約書をつくり,内容をよく練り,納得の上で契約をするというのが大事なのではないか。相手方が,親切にも書面をつくってくれたので,なかみも読まずに「変なことは書いてないだろう」と印を押してしまうのはやめましょう。その行為は,せっかく相手が契約内容を詰めようと考え,手間暇かけてつくった契約書を軽んじるような行為とも言うことができ,逆に相手に失礼とも言えるかもしれません。契約書を読むのです。読んで,理解して,理解できないところがあったら誰かに聞いて,そして困るところがあれば直してもらう。あらゆる契約書は,そのためにあるのです。「読まずにこの場で印鑑を押せ。」という空気を感じたら,遠慮せずに,「では,持ち帰って読ませていただきます。」と言いましょう。これがビジネスシーンであれば,ビジネス相手は,その「空気」を利用しているのかもしれませんよ。

②契約書を作るメリットは,ⅰ)後日の証拠,ⅱ)背中を押す・腹をくくる,ⅲ)手続上の必要,ⅳ)意識のズレ・見落し・甘い期待の排除など,さまざまです。契約書には,取引において交渉漏れはないか,プロジェクトを検討するにあたって見落しはないかなどの「チェックリスト」としての機能もあり(ⅳ),契約書を作成する側からは,この機能も見落とせません。「こんなはずじゃなかった」という場面を防止できるにはよい方法です。似たような取引を今後も行うのであれば,今回の取引で不都合が出たところを,今回の取引の契約書に追加していくことで,ノウハウの蓄積にもなります。そうやって,網羅的に検討した内容を明確に書面化すれば,限りなくもめごとを減らせるのではないでしょうか。「明確に」書面化するのが,契約担当者(契約書作成者)の仕事です。「二義を許さない」(他の意味にはとれない)ような文章を目指しましょう。やり方は簡単です。自分ではない他の人にチェックしてもらって,自分の考えているとおりに読んでもらえるかを見ていけばよいのです。

③契約書を作成するデメリットは,手間・時間・費用といった「コスト」です。契約書をつくるかどうかは,さきに述べた契約書作成のメリットが,コストを上回るかどうかで判断すればよいでしょう。契約書作成のメリット>コスト,です。コストの方が大きいなということであれば,今回は見積書も出したし大丈夫だな,覚書程度は書いた方がいいかな,いやFAXで簡単な書面を送れば十分だろう,ええい金額も小さいしメールで十分だ…など,こうした判断や交渉ができて,力を注ぐべきところとそうでないところが区別できるのが,本当の契約巧者ではないでしょうか。

なるほど。私も,契約書作成にコスト意識をもって,日々の経営や業務に勤しんでいきたいと思います。

「檻の中のライオン」

数年前から,憲法に関するニュースが,ホットです。憲法改正要件に関する憲法改正の問題,安全保障関連法制の問題,緊急事態条項の創設に関する問題,特定秘密保護法に関する問題など,目白押しです。

憲法は,司法試験受験においても,非常に難しい受験科目の1つでした。なんだかムズカシイ言葉が並んでていて,その言葉を理解することが一苦労。多少なりとも勉強しても,それが実際の社会でどんな問題が生じているのかを把握するので一苦労…。学生時代,まわりの方も,「憲法は苦手」という人が,多かったものです。

弁護士楾大樹(はんどう・たいき)著「檻の中のライオン」(かもがわ出版)という本があります。ライオン=権力,檻=憲法というたとえを使って,憲法の全体を説明した,異色の憲法入門書です。 イラストが多用されていてわかりやすく,分厚くもなく,それでいて憲法全体の説明を試みており,末尾には,最近の憲法問題についてのわかりやすいガイドもついています。学生時代に読みたかったなあと思ったくらいです。

私は,弁護士会の災害対策委員会で,災害問題にも携わっておりますので,さきに述べた,緊急事態条項については特に関心を寄せています。こちらについては,弁護士永井幸寿著「憲法に緊急事態条項は必要か」(岩波ブックレットNo.945)という本が,非常に薄く,それでいてわかりやすくまとまっていると思いましたので,おすすめします。

私は,地域の方々への法教育にも力を入れたいと考えております。たとえばこれらのような本も活用し,若い世代から,国の根幹にかかわる憲法問題にも興味をもってもらいたい。一選挙権者・一主権者として,地方から日本をよくするお手伝いをできればなあと思っています。18歳から選挙権が与えられ,若い世代が,「そもそも憲法って?政治って?なんのために選挙に行くの?」という悩みを抱えているところではないかと思うところでもあます。これから,地域の方々とお話をして,弁護士の立場からお力になれるところにつき,講演会などいろいろと企画もできたらなと思います。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。