私(西村幸太郎)の一連のブログ記事です。私がどういう人間なのか、どういう活動をしているのか、どんなことを考えているのか、どんな知識やスキルを持っているのか、信頼に足る弁護士か、などなど、たくさんの疑問をお持ちの方もおられると思います。そのような方々は、是非こちらの記事を御覧ください。

介護職員初任者研修 修了

実は,随分前から(1年以上前から),「地域柄高齢者が多いので介護に関する問題も生じるかもしれない」「対応に当たって現場の方がとっている最低限の知識ぐらいはもっておきたい」と思って,介護職員初任者研修を受講していました。旧ホームヘルパー2級に相当する資格です。ところが,もう少しで受講修了というところで,コロナ関係でアクシデントがあり(注:私が感染したという意味ではありません,念のため。),その関係でその後のスケジュールがかみ合わなくなって,予定合わせに苦慮しながら,先般,ようやく修了することができました。

全15回,おおむね1回が8時間前後。課題や試験あり。やってみて,仕事しながらの受講は,結構きつかったなーと思いました。私だけでなく,現職の介護者ではない,将来のことを考えて仕事をしながら受講している方もそれなりにおり,その姿勢に感動しました。

受講のなかみは,実際の介護で役立つというのはもちろんでしょうが,高齢者のかかりやすい疾患について広く知識を得られたり,特に今は必要であろう感染症及びその対策に関する知識なども得られて,非常に有意義だったのではないかと思っています。よい仲間も得て,今後ますます,高齢者分野の対応に力を入れていきたいと思います。 enter image description here

「介護疲れ」90歳母殺害 大分合同新聞 2021年6月2日25面

今朝,新聞を見ていますと,ショッキングなタイトルが目に入りました。

「「介護疲れ」90歳母殺害」 大分合同新聞 2021年6月2日25面 です。

逮捕段階で,詳細はこれから捜査するのでしょうから,内容には言及しませんが,記事の最後に載っていた,「「地域の中で孤立していたのだろうか。」70代の女性は語った」という一文もインパクトがありました。

幣所は,高齢者の多い地域のなかで,介護業界に密着した活動をしたいと考えています(現在,業界に特化したHPも作成中です。)。地域包括ケアシステムのなかに,法務の専門家としてお力添えできれば…と思っています。今回の事件の記事を見て,改めて,介護というのがときに過酷な世界なのだと思い知らされ,改めて,このような事件がなくなっていくよう,陰で支える一員になれたらという思いを新たにしました。

生活実態,事件に至る経緯などが気になるとことです。事件の経過はこれからも追いかけていきたいと思います。

ボクはやっと認知症のことがわかった レビュー

長谷川和夫「ボクはやっと認知症のことがわかった」

あの「長谷川式スケール」の長谷川さんです。有吉佐和子「恍惚の人」が社会問題を引き起こした頃,長谷川さんは一所懸命に,簡易的に認知症かどうかがわかるテストの開発に明け暮れていたようです。長谷川式スケール開発秘話というのも面白かったですし,これまでの認知症の歴史がよくわかりました。認知症とは何かという本質論について,長谷川さんは,「暮らしの障害」だと言います。「認知症になったからといって,人が急に変わるわけではない。自分が住んでいる世界は昔もいまも連続してるし,昨日から今日へと自分自身は続いている」という言葉も含蓄がある。目に見えない,わかりにくい障害について,第一人者として,自分自身が1人の認知症患者として,淡々と,しかし力強く,考えと想いをつづった一冊と思いました。福祉関係者必読の一冊。

enter image description here

「押し買い」で宝石を失った

平成30年12月12日の西日本新聞に,私が書いた記事が掲載されていますので紹介します。コラム・ほう!な話です。

国民生活センターの最近の被害の情報を意識して,いまだ被害のある訪問購入について記事にしてみたものです。以前,訪問販売についても記事を書き,私も事件・訴訟で取り扱ったことがありますが,クーリングオフは無理由解除できる点で非常にすぐれた制度ですから,ぜひご活用いただければと思います。

------------------------

「押し買い」で宝石を失った

 Q 1人暮らしの祖母が、「不要品を買い取る」と言って訪問してきた業者に、形見として大切にしていた宝石や貴金属を5万円で買い取られました。翌日、祖母が業者に電話し、宝石を返してと訴えましたが「もう遅い。クーリングオフはできない」と言われました。宝石を取り戻せませんか。

A 「押し買い」とも呼ばれる訪問購入の事案です。1人暮らしの女性や高齢者を中心に、考える余裕を与えず、高価なものが買い取られる被害が多発し、特定商取引法が改正され規制対象になりました。

 買い取る際、業者は業者名や物品の種類、特徴、価格などを記した書面を交付しなければいけません。消費者は書面を渡された日から8日以内であれば、クーリングオフで契約を解除して物品を取り戻すことができます。「クーリングオフはできない」などと事実と異なることを告げられたり、すごまれたりして、クーリングオフを妨害された場合は、8日を過ぎても可能です。

 ご相談のケースは、そもそも書面を受け取っていないようですから、クーリングオフができるでしょう。仮に書面を受け取っていても、法律上細かく決められた事柄が全て記されていないなど、書面に不備がある場合もクーリングオフが可能です。正しい書面を受け取っていたとしても、「クーリングオフはできない」とうそを言っているので、やはり可能です。

 各地の消費生活センターや弁護士会などにも相談して対応を考えましょう。(西村幸太郎)

リフォーム工事トラブル

判断能力の乏しい高齢者等を対象として,訪問販売により執拗な勧誘を行い,不安をあおる言動や虚偽説明によって,必要のないリフォーム工事契約を締結させること等を特徴とする商法が,近年増加傾向にあります。

判断能力の乏しい高齢者,周囲にすぐに相談できる家族がいない一人暮らしの高齢者等を相手にするという特徴があります。さらに,不安をあおって強引に契約を締結させようとすることから,消費者側において,工事の必要性や契約内容を吟味せず,十分に理解できないままに契約をさせられてしまうこともあります。虚偽説明,詐欺的な勧誘等にも気を付けなければなりません。

その他,工事代金が不当に高額なケース,業者の技量不足や怠慢により極めて杜撰な工事しか行われないケースも多いです。

こうした消費者被害について,見守りなどによる予防の大切さは言うまでもありませんが,今回は,事後的に,どのような救済があり得るかを考えてみます。

まず,契約を解消することにより,代金を取り戻すなどして,救済を図る方向性があり得ます。特商法9条により,クーリングオフを検討します。訪問販売の場合,法定書面の交付から8日以内であれば,クーリングオフができます。法定書面が交付されているか,書面に不備がないかをしっかりチェックします。悪質な業者は,中途半端な書面を交付するのみで,法定事項をきちんと書いていないときもありますので,諦めずに検討します。

また,このような事案では,不実告知が認められることも多いですので,消費者契約法による取消しも検討できます。特商法9条の3による取消しも検討できます。

民法の意思表示規定に基づく取消し・無効,すなわち,詐欺取消し・錯誤無効も検討できるかもしれません(民法95条,96条)。

あまりに工事代金が高額である場合,暴利行為として,公序良俗違反の構成も検討してみましょう(民法90条)。

一連の勧誘行為が詐欺的だと評価できる場合,消費者が,業者に対し,不法行為に基づく損害賠償ができないか,検討の余地があります(民法709条)。

業者の工事が杜撰だという場合,債務不履行責任(民法415条)又は不法行為に基づく損害賠償責任を検討します。ただし,工事が一応の完成をしている場合,請負人の瑕疵担保責任(民法634条)の追及となる場合もあります。建物自体の損傷や,雨漏りの発生やその効果として損害が広がった場合などが例として挙げられます。

さまざまな法律構成が考えられるため,対処ができないわけではないですが,勝訴可能性とは別に,回収可能性も考慮しなければならないのが,消費者被害の難しいところです。弁護士費用の負担も考えると,ペイしない事案などは,やはり悩ましいですね。

そのような事態が避けられるよう,ひるがえって,法教育の浸透,地域ぐるみの見守りなどで,事前に予防ができるようになると,よいですね。

----------------

特定商取引法

(訪問販売における契約の申込みの撤回等)

第9条 販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等以外の場所において商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約の申込みを受けた場合若しくは販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等において特定顧客から商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約の申込みを受けた場合におけるその申込みをした者又は販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等以外の場所において商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約を締結した場合(営業所等において申込みを受け、営業所等以外の場所において売買契約又は役務提供契約を締結した場合を除く。)若しくは販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等において特定顧客と商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約を締結した場合におけるその購入者若しくは役務の提供を受ける者(以下この条から第九条の三までにおいて「申込者等」という。)は、書面によりその売買契約若しくは役務提供契約の申込みの撤回又はその売買契約若しくは役務提供契約の解除(以下この条において「申込みの撤回等」という。)を行うことができる。ただし、申込者等が第五条の書面を受領した日(その日前に第四条の書面を受領した場合にあつては、その書面を受領した日)から起算して八日を経過した場合(申込者等が、販売業者若しくは役務提供事業者が第六条第一項の規定に違反して申込みの撤回等に関する事項につき不実のことを告げる行為をしたことにより当該告げられた内容が事実であるとの誤認をし、又は販売業者若しくは役務提供事業者が同条第三項の規定に違反して威迫したことにより困惑し、これらによつて当該期間を経過するまでに申込みの撤回等を行わなかつた場合には、当該申込者等が、当該販売業者又は当該役務提供事業者が主務省令で定めるところにより当該売買契約又は当該役務提供契約の申込みの撤回等を行うことができる旨を記載して交付した書面を受領した日から起算して八日を経過した場合)においては、この限りでない

2 申込みの撤回等は、当該申込みの撤回等に係る書面を発した時に、その効力を生ずる。

3 申込みの撤回等があつた場合においては、販売業者又は役務提供事業者は、その申込みの撤回等に伴う損害賠償又は違約金の支払を請求することができない。

4 申込みの撤回等があつた場合において、その売買契約に係る商品の引渡し又は権利の移転が既にされているときは、その引取り又は返還に要する費用は、販売業者の負担とする。

5 販売業者又は役務提供事業者は、商品若しくは特定権利の売買契約又は役務提供契約につき申込みの撤回等があつた場合には、既に当該売買契約に基づき引き渡された商品が使用され若しくは当該権利が行使され又は当該役務提供契約に基づき役務が提供されたときにおいても、申込者等に対し、当該商品の使用により得られた利益若しくは当該権利の行使により得られた利益に相当する金銭又は当該役務提供契約に係る役務の対価その他の金銭の支払を請求することができない。

6 役務提供事業者は、役務提供契約につき申込みの撤回等があつた場合において、当該役務提供契約に関連して金銭を受領しているときは、申込者等に対し、速やかに、これを返還しなければならない

7 役務提供契約又は特定権利の売買契約の申込者等は、その役務提供契約又は売買契約につき申込みの撤回等を行つた場合において、当該役務提供契約又は当該特定権利に係る役務の提供に伴い申込者等の土地又は建物その他の工作物の現状が変更されたときは、当該役務提供事業者又は当該特定権利の販売業者に対し、その原状回復に必要な措置を無償で講ずることを請求することができる

8 前各項の規定に反する特約で申込者等に不利なものは、無効とする。

第9条の3 申込者等は、販売業者又は役務提供事業者が訪問販売に係る売買契約又は役務提供契約の締結について勧誘をするに際し次の各号に掲げる行為をしたことにより、当該各号に定める誤認をし、それによつて当該売買契約若しくは当該役務提供契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。

一 第六条第一項の規定に違反して不実のことを告げる行為 当該告げられた内容が事実であるとの誤認

二 第六条第二項の規定に違反して故意に事実を告げない行為 当該事実が存在しないとの誤認

2 前項の規定による訪問販売に係る売買契約若しくは役務提供契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消しは、これをもつて善意の第三者に対抗することができない。

3 第一項の規定は、同項に規定する訪問販売に係る売買契約若しくは役務提供契約の申込み又はその承諾の意思表示に対する民法(明治二十九年法律第八十九号)第九十六条の規定の適用を妨げるものと解してはならない。

4 第一項の規定による取消権は、追認をすることができる時から一年間行わないときは、時効によつて消滅する。当該売買契約又は当該役務提供契約の締結の時から五年を経過したときも、同様とする

----------------

消費者契約法

(消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)

第4条 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。

一 重要事項について事実と異なることを告げること

 当該告げられた内容が事実であるとの誤認

二 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し、将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供****すること

 当該提供された断定的判断の内容が確実であるとの誤認

2 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ、かつ、当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を故意に告げなかったことにより、当該事実が存在しないとの誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。ただし、当該事業者が当該消費者に対し当該事実を告げようとしたにもかかわらず、当該消費者がこれを拒んだときは、この限りでない。

3 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑し、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。

一 当該事業者に対し、当該消費者が、その住居又はその業務を行っている場所から退去すべき旨の意思を示したにもかかわらず、それらの場所から退去しないこと。

二 当該事業者が当該消費者契約の締結について勧誘をしている場所から当該消費者が退去する旨の意思を示したにもかかわらず、その場所から当該消費者を退去させないこと。

4 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの分量、回数又は期間(以下この項において「分量等」という。)が当該消費者にとっての通常の分量等(消費者契約の目的となるものの内容及び取引条件並びに事業者がその締結について勧誘をする際の消費者の生活の状況及びこれについての当該消費者の認識に照らして当該消費者契約の目的となるものの分量等として通常想定される分量等をいう。以下この項において同じ。)を著しく超えるものであることを知っていた場合において、その勧誘により当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、消費者が既に当該消費者契約の目的となるものと同種のものを目的とする消費者契約(以下この項において「同種契約」という。)を締結し、当該同種契約の目的となるものの分量等と当該消費者契約の目的となるものの分量等とを合算した分量等が当該消費者にとっての通常の分量等を著しく超えるものであることを知っていた場合において、その勧誘により当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときも、同様とする。

5 第一項第一号及び第二項の「重要事項」とは、消費者契約に係る次に掲げる事項(同項の場合にあっては、第三号に掲げるものを除く。)をいう。

一 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容であって、消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの

二 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件であって、消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの

三 前二号に掲げるもののほか、物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものが当該消費者の生命、身体、財産その他の重要な利益についての損害又は危険を回避するために通常必要であると判断される事情

6 第一項から第四項までの規定による消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消しは、これをもって善意の第三者に対抗することができない。

身体拘束ゼロを目指すために

平成30年8月17日,@ウェルとばたにて,2018年度夏の権利擁護研修が開催されました。この研修は,概略,北九州弁護士会もかかわり(なかでも高齢者障害者委員会が中心になって行う),福祉関係者とともに,丸1日かけて,虐待に関する研修を行うというものです。私も,毎年,参加させていただいております。多数の参加者がおり,午後のバズセッションでは,用意された事例に関し,活発な議論,意見の交換がなされていました。

午前中は,講演形式の研修でした。弁護士サイドでは,「身体拘束ゼロを目指すために」と題して,虐待の5類型のなかでも身体的虐待,そのなかでも身体拘束の問題を取り扱う講演を行いました(私は聴講していただけです。発表者の先生方は,お疲れさまでした。)。備忘も含め,内容を簡単に描いておきたいと思います。

安全確保のため,高齢者の身体拘束が必要な場合もあるのではないかという議論があります。しかし,安全を確保するには,むしろ,①転倒・転落を引き起こす原因の分析や,②事故を防止する環境づくりが大事。せん妄状態だから転倒などの事態が生じるのか?トイレに行きたい?何か物を取りたい?同一体位による身体的苦痛がある?不安や寂しさなどがある?対象者がどんな人で,どうしてそのような行動をしているかを考えれば,安全確保のための工夫ができるかもしれません。さらに,環境的な問題も大事です。ベッドの高さ,椅子の位置,床が滑らないか,物が届くところにあるかなどの物理的な環境や,対象者が用事を頼みやすいか,コミュニケーションがとりやすいかなどの人的な環境,チューブ類が目につく位置にあるか,薬剤による影響はないかなどの治療環境などに注意すると,安全確保の工夫のきっかけができるかもしれません。

人手不足は身体拘束の理由にはなりません。身体拘束をしなかったことのみで安全確保の措置を講じなかったと評価されるようなことはありませんし,逆に,身体拘束をしたことについての違法性が問われることは,十分に考えられます。身体拘束が許されるのは,「緊急やむを得ない場合」,すなわち,①切迫性,②非代替性,③一時性の要件が充たされたときのみ。最判H22.1.26は,当時80歳の女性が,入院中病院のベッドに不当に拘束され苦痛を受けたとして,病院に対し,損害賠償請求をした事案ですが,高裁と最高裁で身体拘束が許されるか否かの判断が別れました。現場の方がこれを判断するのは容易ではなく,基本的に身体拘束は許されないという態度でのぞむべきでしょう。

もし,万が一,身体拘束が避けられない場合は,手続面も注が必要です。個人で判断するのではなく,施設全体で判断すること。委員会等の設置がのぞましい。利用者や家族に十分に説明し,理解を求めること。利用者の状態を常時見守り,必要がなくなればすぐに身体拘束を解除すること。その態様及び時間,利用者の心身の状況,「緊急やむを得ない場合」と判断した理由等を記録すること。このような手続を踏んでいく必要があるでしょう。

身体拘束はあくまで例外的なもので,現場の人がどのような悩みを抱え,どのような場合に身体拘束が避けられず,それがやむを得ず行われるのか,身体拘束についてどのような態度でのぞむべきか,大変勉強になりました。

講演では,ユマニチュードやパーソン・センタード・ケアなど諸外国の取り組みについても報告がありました。私も,これから引き続き,勉強していきたいと思った内容でした。

私も,福祉にかかわる法曹として,今回の研修も参考にしながら,日々邁進していきたいと思います。

認知症の人に寄り添うまち 吉富町~若年性認知症について考える~

平成29年6月17日(土),@吉富フォーユー会館大ホール,表題の講演会に行ってきました。少し遅くなりましたが,感想を記しておきたいと思います。

講演会は2部構成。1部は,基調講演として,認知症当事者であり,「おれんじドア」代表の丹野智文さんの講演をお聴きすることができました。2部は,パネルディスカッション。「みんなで考えてみよう。寄り添うって何だろう。」と題して,さまざまな立場の方からのさまざまな意見をお聴きすることができました。

印象に残ったのは,諸外国の取り組みにつき,現地に行って感じたことを話していた,丹野さんの報告についてです。日本では,「守ってあげる」という発想が強く,認知症当事者は何もしないでいい,問題が起きないよう外からガードしていこうという傾向があります。一方,諸外国では,基本的に何でも自分でやらせますが,自分でできるためにはどんな工夫があるだろうと考えます。目が見えにくくなった方向けに腕時計を作る場合,ボタン1つで音が鳴り,時間を知らせる仕掛けを作ったりなど,1つ1つ,工夫を重ねつつも,当事者の自主性・独立性を大事にする風潮があります。自己決定権の重要性が叫ばれる今,日本の傾向というのはいかがなものか,自主性を大事にする方向性を打ち出していくべきではないかと,警鐘を鳴らしていたように思います。

この点,弁護士は,なにができるでしょうか。弁護士と認知症当事者のかかわりというのは,たとえば後見の関係などが考えられるところですが,ここでも,当事者の自己決定をどこまで尊重すべきかが議論されています。今回の講演会を1つのヒントにしつつ,私も,引き続き,検討を重ねていきたいと思います。

高齢者の消費者被害に関する講演会@志免町

平成29年4月20日,@志免町町民センターにて,高齢者の消費者被害に関し,講演を行いました。民生委員30~40名を対象に,高齢者の権利擁護の講演に引き続き,私が,消費者問題についての講演を担当させていただきましたが,みなさんびっくりするほど熱心に聴講していただき,盛況のうちに終えることができたと思います。

講演中,いろいろと「気づき」を得るためのポイント(「高齢の方にまつわるお困りごと」の3つの目のQを参照)をお話しさせていただきましたが,民生委員からは,「民生委員は,普段,家のなかまでは入らないようにという指導を受けている。次回からは,そのあたりも踏まえた指摘をいただきたい。」という趣旨のコメントもいただき,次回の課題を見つけることもできました。いろいろとご指摘をいただけたのは,それだけ熱心に聴講していただいていたのだなということだと思いますので,とてもうれしいことだなと思いました。

内容としては,①消費者被害における「見守り」の重要性,②消費者被害に「気付く」兆候・ポイント,③事後的対応で知っておいて損はない!~クーリング・オフ~の3つを中心にお話ししましたが,その他細かな法制度の紹介なども交えて,内容は濃いものになっていたと思います。講演は,なにをどうやって持ち帰っていただくかにいつも頭を悩ませていますが,ぜひとも,この講演を,これからの「見守り」活動に,役立てていただければ,こんなにうれしいことはないなあと思います。 enter image description here enter image description here enter image description here enter image description here enter image description here enter image description here

「虐待」研修会

平成29年3月1日,@吉富町フォーユー会館,民生委員向けの虐待研修会を行いました。民生委員がかかわることの多いであろう養護者による高齢者虐待を念頭に,通報義務の意義,通報義務が生じる場合(虐待の種類と法律上の要件),通報後の流れなどについて,具体的事例を交えながらお話ししました。 研修会後,複数名の感想として,「わかりやすかった」というお声をいただいたので,まずまずだったと思います。 民生委員向けなので,民生委員法なども検討したうえ,研修を行いましたが,講師側でもいろいろな発見がありました。 また今後も,このような活動を通じ,市民の住みよい街づくりに貢献していけたらなと思います。 このような機会を与えていただき,ありがとうございました。 enter image description here

還付金詐欺について

なんとなく今日の西日本新聞を見ていたら,「還付金詐欺 知ってたのに」という記事が目に飛び込んできました。

記事によると,「返金」といわれ,還付金詐欺が思い浮かばなかった,「返金は今日が締め切り」と言われた,ATMの操作をしたことがなく,言われるがままに操作したら,振り込みをしていた,明細をみて初めて気が付いた,「自分は絶対引っ掛からないと思っていた」…などと記載があります。アナウンサーのような落ち着いた口調で話され信用したなどといった例も記載がありました。

このような詐欺は許せません。虎の子の老後資金だったと思われるのに,これを平気でだまし取るというのは,大変悪質です。こうした詐欺を撲滅するためにも,「どうして騙されてしまうのか?」を知っておくのは,大変有意義だと思います。

少し前,「マンガでわかる!高齢者詐欺対策マニュアル」という本が出ました。タイトルのとおり,マンガで事例紹介があり,わかりやすく構成されていながら,騙される心理を,心理学的にも検討してみるといった形で,内容の濃い本になっています。ぜひ一度お読みいただければと思います。

たとえば,この本では,「自分は大丈夫」がいちばん危ない!と指摘しています。人間は,自分にとって都合の悪いことは無視したり,過小評価したりする,「正常性バイアス」がある。さらに,いったん思い込むと,都合のよい情報だけを集めてしまう確証バイアスというものがある。みなさん,基本的に,社会の人はいい人と思いたいという心理もあり,犯罪グループ等は,そこをついてくるというのです。経験豊富な高齢者(特に女性)こそが,犯罪グループ等の考える,(経験したこともないような)新しい手法に引っかかりやすいなどといったことも指摘されています。「今日まで」といった時間的制約で,正常な判断能力を奪おうとするのも,常套的な手段です。人間には,急がされてあせっているときは,問題に役立つ情報を選んで,きちんと判断するのではなく,パッと思い浮かびやすい,「新しい記憶」を取り出して使おうとするという「ヒューリスティック」という傾向があることなども指摘されており,大変参考になります。

決して,騙される方に,なにか落ち度があるわけではありません。悪いのは,だます方です。それでも,これだけ被害がなくならない状況では,知識をもって,常に警戒しておく必要があると思います。著者も,だましは「いつかくる」ではなく「きっとくる」と思って対処すべしとしています。

私は,たびたび,高齢者の消費者被害の講演を行っていますが,少しでも多くの人が,被害を防止するためのお手伝いができればと思います。