私(西村幸太郎)の一連のブログ記事です。私がどういう人間なのか、どういう活動をしているのか、どんなことを考えているのか、どんな知識やスキルを持っているのか、信頼に足る弁護士か、などなど、たくさんの疑問をお持ちの方もおられると思います。そのような方々は、是非こちらの記事を御覧ください。

日本の司法のインフラ(日本経済新聞記事について)

本日の日本経済新聞13面(法務)では,一面,弁護士に関する記事や司法インフラに関する記事がありました。「企業が選ぶ弁護士ランキング」など興味深いデータもありました(日本企業の法務担当者に聞いたとのことですが,どういう基準でデータを取っているのかは気になります。)。

回答企業のほぼ半数が,インハウス(企業内)弁護士を3年以内に増やす予定だということがわかったとのこと。私が修習生だった頃も,企業内弁護士は人気だったので,新規登録弁護士について,企業とうまくマッチングするとよいですね。法務上の優先課題として「企業統治全般」「M&A」「傘下に加えた企業の管理」「外国法・国際法対応」「新事業進出時の法対応」などが連なっており,弁護士のフロンティアを見極める参考になるかなと思いました。

日本司法のインフラに関しては,企業の方,弁護士,ともに,審理のスピードが遅いということを不満に思っている人が多いということです。実感としても,特に企業の方とお話していると,なかなか進まない交渉などについて,不満を抱える依頼者は多いように思います(相手方があることなので,進まない時は本当に進みません。)。「ディスカバリーがない」「損害賠償金額が少ない」という項目がありましたが,これは主にアメリカ法との比較ではないかと思います。日本法を見直す契機として,アメリカ法を勉強するインセンティブになりそうです。個人的には,後者の問題として,懲罰的賠償について,深めてみたいと思っています。

人工知能(AI)が法曹界の未来にもたらす影響についても,言及がありました。「サービスが向上する」というプラス評価の反面,「パラリーガルなど支援業務従事者が職を失う」という懸念の声もあるようです。AIを使いこなせる弁護士(事務所)とそうでない弁護士(事務所)との格差が広がるという声もあるようです。 この点,いま,リーガルテック(リーガルテクノロジー,法律+技術の造語)について本を読み進めているところです。最近,AIやテクノロジーの話題は,よく議論にあげられているように思いますので,引き続き研鑽の上,また記事を書いていこうと思います。

大橋正春弁護士(元最高裁判事)講演会

大橋正春弁護士(元最高裁判事)は,平成24年2月に最高裁判事に就任されて以降,5年余りの間,第三小法廷で様々な重要判決を担当し,我が国の判例構築に大きくかかわられました。現在は,任官前から活動していた自分の事務所に戻り,現東啓法律事務所に復帰されているそうです。本日,ご講演を拝聴する機会をいただいたので,記事を書いてみます。最高裁裁判官の日常に続き,法的なお話についても,さまざまいただきました。

最高裁に上告する場合,上告理由,または上告受理申立理由をきちんと論証する必要があります。前者は基本的に憲法違反であり,後者は法令の解釈に重要な事項を含むものなどになりますが,これらを区別し,最高裁が法律審であることを意識した書面を作成しなければならないとのことです。最悪なのは,控訴趣意書などとほとんど同じという書面。極端な話,何十頁も論証しないと説明できない法律論は「重大」でもなんでもないという厳しいご指摘もいただきました。適切なキーワードを選択・設定し,短い中に本質を捉えた書面を求めたいとのことでした。弁護士といえど,上告審まで手続きが進むこと,弁論をすることを経験する人は少ないと思います。私も,数回しか,上告または上告受理申立て手続きをとったことはありませんが,今後の弁護活動において参考になるお話をいただけました。

そのほか,「判例とは何か?」というテーマは,非常に深くて面白いということをお話しいただきました。個別意見についても,詳細なコメントをいただきました。反対意見,意見,補足意見の3つがあり,補足意見には,①批判・反論型,②敷衍・説明型,③言訳型,④叱責型,⑤運用指針・手続提示型,⑥解説・補完型など,類型についてお示しいただきました。具体的な判決の個別意見についても,児童ポルノのURLをホームページ上に情報として示したことに留まる被告人の行為の「公然と陳列」該当性を認めた原判決への上告事件,いわゆるJR東海の判決,嫡出推定の有無に関する判例,要素の錯誤に関する判例,預貯金の遺産分割対象性に関する判例変更の判例,,,と,さまざまコメントいただきました。

同種事案に関する外国の事案・判例があれば調べるそうです。法令意見判決の場合,その後,どうなるのか,無視されないように,などといったことは,やはり考えざるを得ない(定数是正に関する一連の事件等)などといったことも,ざっくばらんにお話ししていただきました。

日本の正義を支えてきた15人の1人に関する生のお話を拝聴できたことは,今後の弁護活動に関する血肉になっていくものと思います。私も,日々,精進していきたいと思います。

元最高裁判所裁判官 櫻井龍子先生 講演会

元最高裁判所裁判官・櫻井龍子先生のご講演を拝聴する機会を賜りました。先生は,主に労働関係の行政経験が豊富で,その経験が極めて有効に機能し,8年4か月の任期(本人いわく,刑期(?!))をまっとうできたとのことです。

いろいろなお話をいただきましたが,最後に,司法に残された課題等に関して,先生のお考えなどもお話しいただいたので,こちらを中心に,紹介させていただきます。

最高裁は,変わった(変わりつつある)と思っている。なんといっても,裁判員裁判の導入がもたらした変化は大きい。最高裁も,国民のためのサービス機関ということに目覚めた節がある。主文だけでなく,裁判官の裁量で,要旨も伝えよう。裁判員に対し,裁判終了後,所長名入りの感謝状をお渡ししよう。国民のためにわかりやすい判決にしよう。こういう努力もされはじめたところである。最高裁がやるべきことはやる。違憲立法審査権の行使についても,従前より,積極性がみられるようになった。

一方,民事訴訟制度については,第2の司法制度改革ともいうべき,新たな改革が必要ではないかと思われる。たとえば,欧米のアミカス・キュリエ(法廷助言人)制度を導入してはどうか。現行法でも専門委員制度はあるものの,十分かどうか検証が必要である。本人訴訟についてはどうか。最高裁にあげられる本人訴訟の比率は多い。最高裁は法律審なので,法律専門家の助力が望ましいのではないか。諸外国のIT化の波に比べ,日本はIT化が進んでいない。IT化を図るべきだ。

統計上,過払金訴訟の減少以上に,民事裁判の数は減少していない。しかし,それを手放しに喜べるわけではない。この間,弁護士の数は激増している。法テラスが設立され,市民は格段に法的手続を利用しやすくなっている。それなのに,どうして,裁判利用者は横ばいなのか。問題意識があるところである。市民における司法へのアクセスの問題をどう改善していくか。

最後の問題意識は,地方で活動する私も常に考えている問題意識です。なんでも訴訟をすればよいわけではないにせよ,法律という物差しを使った紛争解決という基盤をつくることは必要と思います。今回の講演で学んだことを,業務にも生かしながら,よりよい地方での司法サービスの提供に努めたいと思います。

簡裁物損交通事故事件のあり方

福岡県は,全国的にも非常に交通事故の多い地域と言われています。豊前市は,西鉄が撤退し,バスなどの公共交通機関が発展していない関係か,車がインフラとして必要不可欠です。人口の4割とも言われる高齢者も運転し,細い,通りづらい道も散見されることから,例にもれず,交通事故が多いです。

なかでも,物損事故は,近年急速にその数が増しているといいます。物損事件の審理を考える上では,司法研修所編「簡易裁判所における交通損害賠償訴訟事件の審理・判決に関する研究」(法曹会)が非常に有用だと思います。その内容の一部について,以下,ランダムに紹介します。

まず,必ずといってよいほど問題になる,過失(割合)に関する論点。加害者側が過失相殺を主張するにあたっては,被害者側に,どんな具体的注意義務違反があるのか,明らかにする必要があります。いわゆる別冊判例タイムズ38号(緑の本)を引いて主張する場合も多いと思いますが,過失相殺という以上,被害者側の注意義務違反の指摘は必須でしょう。この点,道路交通法規は,日常生活の中で一般に生じうる典型的事故事例を想定し,そこからの交通関係者の保護を目的とした規範としての性格も有しているので,道路交通法違反等の注意義務違反(定型的有為義務違反)があれば,過失を認めることができます。したがって,過失の立証としては,事故態様を詳細に主張した上,定型的注意義務違反を主張すれば足りるといわれています。とすると,過失の主張においては,道交法の理解が,非常に重要だということになりますね。

事故態様が争われる事案では,事故現場の道路状況及び車の損傷状況という客観的事実にまずは着目し,信用性の高い書証によりこれを固めるところからはじめるべきです。当事者の供述も重要ですが,客観的事実に合致するか,双方の供述が一致するかどうか,不利な事実をあえて認めていないかなどに気を付けながら聞く必要があります。物件事故報告書には,事故後当事者が警察官に対しどのように述べていたかがわかることがあり,有用です。タコグラフは,事故時の速度の認定に役立ちます。一方で,車の損傷状況から事故態様を推認することには限界があること,生半可な認定は危険ともいえることなども理解しておくべきです。

次に,損害論。修理費,買替差額,評価損,代車料,休車損,慰謝料等があります。これらの問題を考えるにあたり,事故車両の時価額が問題になることがありますが,「自動車価格月報」(レッドブック),「中古車価格ガイドブック」(イエローブック,シルバーブック),「建設車両,特殊車両標準価格表」インターネット上での中古車価格情報等の価格を参考にします。評価損もよくもめますが,実務では,事故車両の車種,走行距離,初度登録からの期間,損傷の部位・程度(損傷が車体の骨格部分に及んでいるかどうか),修理の程度,事故当時の同型車の時価等諸般の事情を総合考慮し,修理費の一定割合(3割程度の範囲内)で評価損を認めることが多いです。

なお,車両の所有者以外の者が車両損傷による損害の賠償を求めるケースでは,その者がその損害賠償請求権を有する根拠について注意する必要があります。

ところで,物損事故では,加害者側から別訴・反訴が提起されることが多いですが,これも含め和解の中で話し合いたいと希望することもあります。裁判所はこれをよく確認し審理を適切に進めていく必要がありますし,代理人は,このような事態も含めて依頼者によく説明しておくべきでしょう。

物損事故をいかにして適切・迅速な解決を図るか,いつも頭を悩ませます。ご依頼者様とともに悩み,二人三脚で,ご依頼者様のための弁護士活動を展開していきたいと思います。

裁判員裁判声掛け事件

平成29年1月6日,新年早々に,裁判員声掛け事件の判決が出ました。新聞記事をみた程度で,詳細を知っているわけでも,事件記録を見たわけでもありませんから,軽々なことは申し上げられませんが,裁判員制度の根幹である,裁判員の保護につき,あらためて考えなければならないですね。

ところで,先日,久しぶりに,三谷幸喜原作・脚本「12人の優しい日本人」を見ました。これは,著名な映画「12人の怒れる男」をベースに,仮に日本に陪審制度があったら…こうなる!という姿を描いたものです。三谷幸喜作品のなかでは,他の作品に比べてあまり知られていないように思われますが,私のおすすめです。「12人の怒れる男」は,ミステリー/シリアスタッチで,陪審員は真実を発見するものだという姿が全面に押し出されているように感じるところですが,対して「12人の優しい日本人」は終始コメディー・タッチであり,しかし結局真面目に議論して結論に到達するということで,非常に国民性やその国の考え方があらわれているのではないか,そのコントラストが面白いと思っています。ぜひ見比べてください。

さまざまな議論のある裁判員制度ですが,裁判員の多くは,「よい経験になった」など,前向きなコメントをしているようです。さきに紹介した「12人の優しい日本人」ではありませんが,日本人は,あまり争いを好まないながらも,いったん引き受けると,引き受けたからには真面目にやる(義理人情の世界?)というような国民性をもっているように思います。本件のような事件は,どちらかといえば例外的な事件なのでしょうし,普段裁判員は自分が危険いさらされることなどはあまりイメージしていないものではないかと思いますが,いったんこのような事件が報道されると,国民が不安に陥り委縮して,もともとの趣旨である「国民の常識を裁判に反映させる」という原点に,大きな支障が生じることになるものと思います。残された課題は大きいと思います。裁判員保護のため制度的な整備は必要ないのか,裁判所の個別の運用で見直すべき点はないのか,私も法曹の一員として,検討を続けたいと思います。

【参考:裁判員法】

第七章 罰則

 (裁判員等に対する請託罪等) 第七十七条 法令の定める手続により行う場合を除き、裁判員又は補充裁判員に対し、その職務に関し、請  託をした者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。 2 法令の定める手続により行う場合を除き、被告事件の審判に影響を及ぼす目的で、裁判員又は補充裁判  員に対し、事実の認定、刑の量定その他の裁判員として行う判断について意見を述べ又はこれについての  情報を提供した者も、前項と同様とする。

 (裁判員等に対する威迫罪) 第七十八条 被告事件に関し、当該被告事件の裁判員若しくは補充裁判員若しくはこれらの職にあった者又  はその親族に対し、面会、文書の送付、電話をかけることその他のいかなる方法をもってするかを問わず  、威迫の行為をした者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。 2 被告事件に関し、当該被告事件の裁判員候補者又はその親族に対し、面会、文書の送付、電話をかける  ことその他のいかなる方法をもってするかを問わず、威迫の行為をした者も、前項と同様とする。

ハンセン病問題の解決を願うつどい

平成28年12月23日,豊前市同和福祉センターにて,「ハンセン病問題の解決を願うつどい 対談;ハンセン病家族裁判~地域が問われている」が開かれました。私も参加しました。

対談するのは,ハンセン病家族裁判原告団長の林力さんと、「生まれてはならない子として」の著者宮里良子さんです。

ハンセン病は,現在は完治する病気ですが,歴史的には,根強い差別にさらされ,隔離政策まで実施されてしまった病気です。私も,直接見たこともなく,司法試験の際に勉強した程度で,経験に基づく生の声を聴いたのははじめてでした。大変勉強させていただきました。

対談の中で,いまの日本の人権教育はつまらないというご指摘がありました。 日本の人権教育というのは,部落差別,同和問題に端を発しているといっていいと思う。教科書にも厚く書かれる。ただ,逆に,きちんと書いておきさえすればいいというようにもみえる。教科書には,差別はいけないよという趣旨のことが書かれる。国の責任などにはほとんど触れられない。一方で,ハンセン病の問題は,すでに解決済みの問題のような扱いだ。過去に,隔離政策をとったというような,歴史的事実は変えられない。なかったことにはできないのに。…

質疑のなかでも,日本の人権教育の在り方についての熱い議論が交わされており,大変参考になりました。

お話のなかでは,先般提起されたハンセン病家族裁判の弁護団の一員である松尾先生から,裁判の経過のご説明をいただきました。先日,国からの答弁が出ており,私が理解したところによると,「差別を助長したことは認めるが,差別をつくりだしたことは否認する。国が作り出すまでもなく,社会的に差別は醸成されていたものだ。」という内容だとのことです。こちらの裁判の経過も見守ります。

林力さんの著書「父はハンセン病患者だった」を購入したので,引き続き勉強し,裁判の経過も追いかけたいと思います。

本人による成年後見申立て

先日の成年後見研修会における質問について,もう1つ,記事を書いてみます。

本人による後見申立ては可能か。

意外と難しい問題なのです。問題の所在は,以下のとおりです。

後見相当(財産管理能力・判断能力がない)の人が,成年後見の意味を理解して申し立てできるのか。仮に,弁護士に委任して申立てをするのであれば,弁護士と委任契約が結べるのか。

民法では,後見の場合も,本人が申立てできると書いてあります(7条)。私は,条文上,認められている以上は,基本的に可能という考えです。 たとえば,認知症高齢者の方がおられるとします。この場合,常時判断できないわけではなく,波があるのが通常です(研修会では,ことばは悪いかもしれませんが,「まだらボケ」ということもあり得るという指摘があり,なるほど,そのように考えると,イメージはわきやすいのかなと思いました。)。日によって場合によって,時には十分に物事を正確に理解し判断できることもあります。しかし,全体的にならせば,やはり後見相当と判断されることもあるでしょう。この場合,判断能力が比較的正常なタイミングで,後見申立てを決意し行えば,本人の意思尊重の観点からも,問題はないと思います。このように,後見申立ての意味を理解して意思決定し申し立てる可能性がある以上,申立てが許されないということはないと思います。 そもそも,実際に後見か,保佐か,補助か,はたまたそうでないかは,裁判所の判断事項です。実際に審理してみないとわからないといえます。その意味でも,申立てが門前払いで受理されないというのはおかしいと思います。 さらに,厳密には,財産管理能力と申立てを理解して行う能力は,内容も程度も違うでしょうから,財産管理能力の点で後見と判断されたとしても,申し立てる能力はあるということも考えられます。

以上のとおり,本人申立ては可能と考えますが,法律上できることと,実際に本人申立てでやるべきか,どのようにするかは別問題です。 周囲に適切な支援者がいる場合,その人に丁寧に説明の上,後見申立てにつき理解を得て,その人に申し立てていただくという方法もあります。支援者がいない場合,ひとまずあきらめず探してみることもあり得るでしょう。 実際に本人申立てをする場合は,本人の本意で行えているものなのか,主治医,家族,介護担当者などの意思も参考にしつつ,常にチェックする必要があるでしょう。

弁護士が申立てする場合は,そもそも手続申立代理人として受任できるのか,本人に委任する能力とその意思があるのかを,同じく,慎重にチェックする必要があると思います。 この点,委任契約は,比較的内容が難しい契約と思われますので(スーパーで買い物するのとは内容が全然違う),後見相当と思われる場合は,一切受任できないという方もいるようです。 法テラスは,後見の本人申立てについては,一切扶助の決定をしないという扱いをしており,参考になります。(法テラス・民事法律扶助のお話は,また別に書きたいと思います。)

ちなみに,認知症高齢者のお話をしましたが,知的障害・精神障害の方の場合,比較的,判断能力の変化に,波が少ないようです。もちろんケースによるのですが,後見の本人申立てのハードルは,さらに1段あがるかもしれません。

大阪の家庭裁判所は,後見の本人申立てを認めています。全国的にも,知的障害者による後見申立てが認められ,後見が開始された例があります。窓口で申立書の受理につき難色を示されたら,粘り強く説得することも必要かもしれません。仮に,申立てが却下された場合,不服申立て(即時抗告)ができます。

本人の申立てが難しい場合,本来は,市町村長が申立てをすることができます。しかし,この制度では,4親等内の親族の調査とその意向確認に時間を費やしたり,予算の壁があったりなど,迅速適正な保護が図れない実情があります。そのため,本人申立てを検討せざるを得ないことがあるわけです。 せっかく,地域の弁護士と赴任したのですから,このあたりの運用について,市と協議するなどの機会もつくることができたらと思っています。

研修会でもお話しましたが,高齢者・障害者問題については,まわりの人,支援者のお力添えが必要不可欠です。一緒に悩みながら,地域の問題を解決していけたらなと思います。

成年後見人と身体侵襲行為

本日,「成年後見のイ・ロ・ハ」という演題で,研修を行いました。 内容は,ごくごく基本的なものをベースにお話ししたのですが,質問のレベルが高く,驚かされました。

身体侵襲行為(医療同意)についての質問があったので,書いてみたいと思います。

本人に,手術など身体侵襲行為の必要が生じた場合,成年後見人は,医療機関側が求めてくる医療同意をできるか(どう対処すればよいか)という問題です。

法的な結論は簡明で,成年後見人には,そのような同意権はありません。 成年後見人は,入院するにあたって必要な病院との契約など(医療契約)の代理権を有することはあるでしょうが,身体侵襲行為についての同意権はありません。 しかし,医療機関側は,リスクヘッジのため,同意を求めることがあります。医療機関側も,軽々に,ご本人のお体に侵襲することはできませんから,事情は十分に理解できます。そのため,(ほかに身寄りがあればその人に求めればよいですが,身寄りがなく,成年後見人意外に同意を求めることができない場合,)成年後見人に対して,同意を求めるというわけです。

では,成年後見人は,同意書にサインをしていいのか? 対応は,ケースと成年後見人のスタンスにもよると思います。しかし,前提として,法律上,成年後見人に,そのような「権限」はありません。 なので,法的には,そのような同意をしても,無意味ということになるでしょう。その旨,医療機関側に丁寧に説明した上で,手術をしてもらうことになると思います。どうしてもと言われた場合,同意しても法的に意味はなく,気休めにしかならない(責任はとれないしとる必要もない)けれども,それでもいいならサインしますよ,という形で,サインをする成年後見人もいるようです。 医師には,治療の義務がありますから,患者を放置するわけにはいきません。医師の心配を取り除いてあげて,スムーズに手術を行うためには,あり得る対応だと思います。

ところで,この問題の一環として,しばしば問題になるのは,予防接種の問題です。予防接種も,身体的侵襲を伴う医療行為ですから,やはり成年後見人には,同意権はないと考えられます。しかし,予防接種法に,以下のような規定があるので,同意権があるという解釈をする方もいるようです。

【予防接種法】 (予防接種の勧奨) 第八条  市町村長又は都道府県知事は、第五条第一項の規定による予防接種であってA類疾病に係るもの又は第六条第一項若しくは第三項の規定による予防接種の対象者に対し、定期の予防接種であってA類疾病に係るもの又は臨時の予防接種を受けることを勧奨するものとする。 2  市町村長又は都道府県知事は、前項の対象者が十六歳未満の者又は成年被後見人であるときは、その保護者に対し、その者に定期の予防接種であってA類疾病に係るもの又は臨時の予防接種を受けさせることを勧奨するものとする。

私は,単に「勧奨する」という規定から,同意権を導くことはできないと考えます。しかし,成年後見人は,本人に対し,少なくとも,予防接種を受けるよう働きかける必要があるのではないかとも考えています。

これらの問題は,法的な観点だけから考えられる問題ではありません。場合によっては生命にもかかわりかねない重大な問題ですから,今後一層,議論が深まっていくことを期待したいと思います。

成年後見等申立て‐どんな資料が役立つ?

豊前市は,高齢者(65歳以上)の割合が,人口の4割に達しようとしています。高齢化率が上がっているのは,どこの自治体も同じではないかと思います。 相談を受けて感じるのは,ご本人様に自覚はなくとも,支援者等からみれば,成年後見等の検討の必要がありそうな事案が多いことです。一方で,お金がかかるではないか,どうすればいいかわからない,面倒である…。いろいろな理由で,棚上げにされてしまっている現状があるのではないかということです。

この記事では,「どうすればいいかわからない」の部分に焦点をあて,とりあえず自分でやってみようとか,勉強してみようなどという場合に,どんな資料を参照するのが有効か,書いてみます。

私がおすすめするのは,福岡家庭裁判所が出している,「成年後見申立ての手引き」(H27.3版)です。(他県でも,同じように,手引きがあるようですね。) 理由は,以下のとおりです。

①一般の方向けで,非常にわかりやすい。(巷に書籍はたくさんありますが,専門的でわかりづらいものも多いです。)

②比較的薄い。(数百ページある書籍も多いです。読むにあたって挫折しないためには,重要なことだと思います。)

③利用者・家族など,一般の方に対しても,説明がしやすい。(①わかりやすいですし,Q&Aを多用するなど工夫しており,自学だけではなく説明にも使いやすいと思います。)

④実際の申立てに必要な情報が満載で,実用的。(書式もふんだんに使っています。)

⑤裁判所のホームページからダウンロード可能なので, ⅰ)無料で入手できる ⅱ)ご本人様・利用者・支援者などの間で情報共有ができ,連携がスムーズになる。(各々がバラバラの書籍を使っていると,こうはいきませんよね。)

⑥姉妹版の成年後見人のためのQ&A(1)(2)(H28.3版)があるので,実際の後見業務まで学ぶこともできる。

⑦判断する裁判所自身が出しているもので,信頼できる。(書籍はピンからキリまであります。)

仮に,とりあえず自分で勉強してみて,無理そうだったら,専門家への依頼も検討してみたいという方がおられましたら,これらを読んでみてから判断してはいかがでしょうか。 すでに,申立てをしようと決めている方々にとっても,今後どのように手続を進めていくのか/進んでいくのかを把握する上で,とても役に立つと思います。

成年後見等の制度は,ご本人様の権利利益を守りたいと思って利用する反面,ご本人様の権利を制限してしまうものでもあるので,弁護士にとっても,利用すべきか否かは,悩ましい場合が多いです。地域の方々と一緒に,最もご本人様のためになる方法について,考えていけたらと思っています。

アニメ 裁判員制度

漫画「総務部総務課山口六平太」を用いて、 裁判員制度について描いたアニメです

何から始めたらいいのか?を とても、分かり易く描いています

再生するためには、Youtubeのリンクをクリックして、 Youtube上で閲覧してください。 ここをクリックして下さい Youtube上で再生

ご参考にどうぞ