私(西村幸太郎)の一連のブログ記事です。私がどういう人間なのか、どういう活動をしているのか、どんなことを考えているのか、どんな知識やスキルを持っているのか、信頼に足る弁護士か、などなど、たくさんの疑問をお持ちの方もおられると思います。そのような方々は、是非こちらの記事を御覧ください。

節税目的の養子縁組の有効性

私は,何度か,養子縁組無効確認請求訴訟を担当したことがあります(いずれも勝訴)。そのためでしょうか,縁組意思の有無,縁組の有効性といった論点には,関心を寄せています。平成29年1月29日,最高裁で新たな判断が示されましたので,ご紹介します。

相続税の計算において,基礎控除は,3000万円+600万円×法定相続人の数,という計算式で算出されます。ですので,法定相続人が多くなると,基礎控除が大きくなり,節税になります。この点,法定相続人は,配偶者は必ず(民法890条),ほかに第1順位が子(民法887条),という形で定められています。配偶者は重婚が禁止されている(民法732条)ことから,配偶者の数を増やすという方法で,節税はできません。ところが,子は,人工的に親子になる方法(養子縁組)があることから,子の数を人工的に増やして,相続人の数を増やし,基礎控除を増やし,結果,節税をすることができるわけです。

判例の事案では,税理士のアドバイスもあり,節税のために養子縁組をしたところ,そのような縁組では,縁組が有効である要件である「縁組をする意思」(民法802条1号)が認められないのではないか,という点が問題となりました。

判例は,相続税の節税の動機と縁組をする意思とは併存し得るものであり,「専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても,直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう『当事者間に縁組をする意思がないとき』に当たるとすることはできない」と判断しています。つまり,節税目的の縁組は有効ということですね。

気になるのは,「専ら」という言葉がついてある点。その後に「前記事実関係の下においては…『当事者間に縁組をする意思がないとき』に当たるとすることはできない。」と書いてあるため,事例判断なのかな?と思ったりもしましたが,「専ら」節税目的でも縁組意思なしという判断なので,縁組の有効性につき節税目的の有無は無関係と読んでよいのでしょう。「前記事実関係の下においては…」のくだりは,その他の可能性を含めても,縁組意思を否定する事情は見当たらないという検討過程を記していると読み取ればよいのかな,と思います。

ところで,新聞を見ていると,国税庁は,課税逃れが明白な縁組では養子分の控除を認めない方針を示しており,今後も維持する方針とのこと。税務の世界では,実体法の考え方と異なる判断をすることがままありますが,税務の世界では,実体法上は縁組が有効(法律上の子であり相続人になる)でも,税務上は子=相続人として扱わず,基礎控除を大きくすることは認めないということになるのでしょうか。税務上の解釈の問題と,そもそもどうやって「課税逃れが明白な縁組」を調査・判断するのかという問題が残されているように思います。

今後も,縁組意思の論点について,考えていきたいと思います。

子の引渡し(人身保護請求)をめぐる問題

弁護士として仕事をしていると,ときに,子どもの親権・監護権や引渡しをめぐり,熾烈な争いをせざるを得ない場合があります。弁護士の本音としては,子どものためには,このような争いもよくないのだけど,相手方のところに子どもがいる状態もよくないから,やむを得ず強制的な手段を選択せざるを得ない,ということも多いようです。今回は,子の引渡しをめぐる問題について,考えてみます。

実務上,子の引渡しを求める手続・方法として,①家事審判(審判前の保全処分含む)(子の監護者の指定,その他子の監護に関する処分としての子の引渡し請求など),②人事訴訟(離婚訴訟等の付帯請求として子の引渡し請求),③人身保護請求,④民事訴訟(親権または監護権に基づく妨害排除請求としての子の引渡し請求(最判昭35・3・15)),⑤刑事手続(子の連れ去りが略取行為と評価できる場合に告訴等による刑事司法の介入を求める)などがあります。

従来は,③人身保護請求がよく使われていたそうですが,最高裁の判例で,この請求の要件を厳格に考える傾向があらわれてから,①家事審判(審判前の保全処分)を活用し,子の監護者指定及び子の引渡しを求める審判(審判前の保全処分)の申立てにより解決を図ろうとするケースが多いようです。

もっとも,③人身保護請求には,①審判前の保全処分にはない,迅速性・容易性・実効性という特徴を有しています。そこで,人身保護請求の要件である,「顕著な違法性」(人身保護規則4条)が認められると判断し,さきにみた迅速性・容易性・実効性の観点から実益があると判断される場合には,なお,人身保護請求を検討する意味があると思います。

具体的に検討してみます。

人身保護請求が認められるための要件は,①子が拘束されていること(拘束性),②拘束が違法であること(違法性),③拘束の違法性が顕著であること(違法の顕著性),④救済の目的を達成するために,他に適切な方法がないこと(補充性)とされています(人身保護規則4条)。

特に,問題になるのは,②③の拘束の違法性が顕著であること,という要件です。

一般的には,子の拘束を開始した経緯に違法行為があり,その違法性の程度等からただちに現在の拘束が権限なしになされていることが明らかであると認められる場合をいいます。

具体的には,判例により,場合わけをして,一定の基準が示されていますので,ご紹介いたします。

共同親権者による拘束の場合,その監護は,特段の事情がない限り,親権に基づく監護として適法と考えられます。そこで,違法性が顕著といえるための要件は,厳格になります。判例によると,共同親権者による拘束に顕著な違法性があるというためには,「拘束者が幼児を監護することが,請求者による監護に比して子の福祉に反することが明白であることを要する」とされています(明白性の要件。最判平5・10・19)。 さらに,明白性の要件に該当する場合を,明確化するものとして,以下の2つの類型が挙げられています。ⅰ)拘束者に対し,子の引渡しを命じる審判や保全処分が出され,その親権行使が実質上制限されているのに,拘束者がこれに従っていない場合(審判等違反類型),ⅱ)請求者のもとでは安定した生活が送れるのに,拘束者のもとでは著しく健康が損なわれたり,満足な義務教育が受けられないなど,拘束者の親権行使として容認できないような例外的な場合(親権濫用類型)。

他方,非親権者・非監護者による拘束の場合は,相手方にはなんら監護の権限なく拘束しているのですから,さきにみたような厳しい要件を課す必要はありません。判例は,さきの共同親権者による拘束の場合とは区別して,非親権者・非監護者による拘束の場合,「幼児を請求者の監護の下に置くことが拘束者の監護の下に置くことに比べて子の幸福の観点から著しく不当なものでない限り,拘束の違法性が顕著である場合(人身保護規則4条)に該当し,監護権者の請求を認容すべきものとするのが相当である」としています。

以上が,人身保護請求が認められる要件です。その他,手続的なところで特徴的なのは,原則として請求者は弁護士を代理人として請求しなければならない(弁護士強制主義)とされていること(人身保護法3条),被拘束者である子に代理人がいない場合,裁判所により選任された国選代理人(人身保護法14条2項,人身保護規則31条2項)が子の訴訟代理や調査活動を行うことになるとされていること,迅速に審理できるような規定がおかれていること(請求は他の事件に優先して行われる,審問期日は,請求のあった日から原則として1週間以内に開く,立証は疎明で足りる,判決の言渡しは審問終結の日から5日以内に行わなければならない,上訴期間は3日以内など)などです。

各ケースにおいて,人身保護請求の要件を満たすか否かも検討しつつ,どういった手段により解決するのが最も適切か,ご依頼者様とともに悩みながら,紛争の解決を図っていきたいと思います。