私(西村幸太郎)の一連のブログ記事です。私がどういう人間なのか、どういう活動をしているのか、どんなことを考えているのか、どんな知識やスキルを持っているのか、信頼に足る弁護士か、などなど、たくさんの疑問をお持ちの方もおられると思います。そのような方々は、是非こちらの記事を御覧ください。

児相の一時保護 見極め長期化

2021年1月6日(水)日本経済新聞12版社会34面「児相の一時保護 見極め長期化」「虐待か事故か 1年超離れ離れも」

虐待関係の事件も扱った経験があります。加害者とされる親側の弁護をしたことも,児相から子どもを返してもらえないと訴えるキーパーソンとともに児相に働きかけをしたことも,いろいろです。

対応していて感じるのは,①児相の権限が強すぎるのではないか(←ここについては,もともと児相の権限強化をはかって法改正をした経緯もあり,批判もあろうかと思います。),②期限がなく先行きがわからない不安に親が悩まされている現状にもっと目を向ける必要があるのではないか,ということです。

記事のなかでは,限られた情報のなかでもすみやかな判断をする必要性に関する指摘と,一方で,短期間では子どもの本心を聞き出せず慎重な判断ができないという現場の声が紹介されています。

子どものこと,しかも生命身体健康にかかわることですので,慎重さは必要ですが,同じくらい幼少期のかけがえのない時間が奪われることの深刻さも感じます。バランスを考えつつも,間違っても重大事件につながらないようにすべきと考える児相のプレッシャーも大きいと思います。

それから,児相のほかに,虐待を「した」とされる側が,さまざまな相談をしたり勉強をしたりする専門の機関があればいいですね。私が知らないだけで,さまざまあるよという場合は,ぜひ教えてください。児相から子どもを返してもらえないと考えている親の中には,児相と話をする以外に方法が思い浮かばず,子どものために何をすればよいかがわからない人もいると思います。自分が子育てについて学びなおすということも重要と思いますが,こうした内容を専門にわかりやすく教育する機関があるといいですよね。

過ちは反省すべきだけど,その後の反省の深まりはしっかり感じられて,本人も改心していると感じている事案などでも,なかなか子どもと会わせてもらえず,返してもらえず,ということも経験しています。そういう場合でも,変えようのない過去に起こった事実については,やはり重視されますから,事後の情状がよいと思われても,なかなか返してもらえない。これに心を板見る親の側の弁護をしていると,それはそれで辛いところがあるものです。

厚生労働省が,2020年9月,一時保護に関する検討会を設置しているそうです。20年度中には,保護を開始・解除する際の判断方法や保護所内の環境づくり,通学の在り方などを幅広く検討して,まとめる予定だそうです。議論の深化を期待したいと思います。

身体拘束ゼロを目指すために

平成30年8月17日,@ウェルとばたにて,2018年度夏の権利擁護研修が開催されました。この研修は,概略,北九州弁護士会もかかわり(なかでも高齢者障害者委員会が中心になって行う),福祉関係者とともに,丸1日かけて,虐待に関する研修を行うというものです。私も,毎年,参加させていただいております。多数の参加者がおり,午後のバズセッションでは,用意された事例に関し,活発な議論,意見の交換がなされていました。

午前中は,講演形式の研修でした。弁護士サイドでは,「身体拘束ゼロを目指すために」と題して,虐待の5類型のなかでも身体的虐待,そのなかでも身体拘束の問題を取り扱う講演を行いました(私は聴講していただけです。発表者の先生方は,お疲れさまでした。)。備忘も含め,内容を簡単に描いておきたいと思います。

安全確保のため,高齢者の身体拘束が必要な場合もあるのではないかという議論があります。しかし,安全を確保するには,むしろ,①転倒・転落を引き起こす原因の分析や,②事故を防止する環境づくりが大事。せん妄状態だから転倒などの事態が生じるのか?トイレに行きたい?何か物を取りたい?同一体位による身体的苦痛がある?不安や寂しさなどがある?対象者がどんな人で,どうしてそのような行動をしているかを考えれば,安全確保のための工夫ができるかもしれません。さらに,環境的な問題も大事です。ベッドの高さ,椅子の位置,床が滑らないか,物が届くところにあるかなどの物理的な環境や,対象者が用事を頼みやすいか,コミュニケーションがとりやすいかなどの人的な環境,チューブ類が目につく位置にあるか,薬剤による影響はないかなどの治療環境などに注意すると,安全確保の工夫のきっかけができるかもしれません。

人手不足は身体拘束の理由にはなりません。身体拘束をしなかったことのみで安全確保の措置を講じなかったと評価されるようなことはありませんし,逆に,身体拘束をしたことについての違法性が問われることは,十分に考えられます。身体拘束が許されるのは,「緊急やむを得ない場合」,すなわち,①切迫性,②非代替性,③一時性の要件が充たされたときのみ。最判H22.1.26は,当時80歳の女性が,入院中病院のベッドに不当に拘束され苦痛を受けたとして,病院に対し,損害賠償請求をした事案ですが,高裁と最高裁で身体拘束が許されるか否かの判断が別れました。現場の方がこれを判断するのは容易ではなく,基本的に身体拘束は許されないという態度でのぞむべきでしょう。

もし,万が一,身体拘束が避けられない場合は,手続面も注が必要です。個人で判断するのではなく,施設全体で判断すること。委員会等の設置がのぞましい。利用者や家族に十分に説明し,理解を求めること。利用者の状態を常時見守り,必要がなくなればすぐに身体拘束を解除すること。その態様及び時間,利用者の心身の状況,「緊急やむを得ない場合」と判断した理由等を記録すること。このような手続を踏んでいく必要があるでしょう。

身体拘束はあくまで例外的なもので,現場の人がどのような悩みを抱え,どのような場合に身体拘束が避けられず,それがやむを得ず行われるのか,身体拘束についてどのような態度でのぞむべきか,大変勉強になりました。

講演では,ユマニチュードやパーソン・センタード・ケアなど諸外国の取り組みについても報告がありました。私も,これから引き続き,勉強していきたいと思った内容でした。

私も,福祉にかかわる法曹として,今回の研修も参考にしながら,日々邁進していきたいと思います。

講演:養介護施設従事者による虐待について

 平成29年8月18日,北九州市と北九州弁護士会が毎年開催している,高齢者・障害者研修会。本研修で,今回は主に養介護施設従事者による虐待にスポットライトをあて,講義の一部を担当させていただきました。当日お話しした内容と異なる部分もありますが,シナリオの内容につき,多少修正を加えた上で,ご紹介させていただきます。

 行政の方から,身体的虐待のうち,身体拘束に焦点をあてた説明と,統計の分析につき解説をいただきました。弁護士のパートでは,前半,高齢者虐待防止法(特に養介護施設従事者による虐待について)の解説をいただき,後半,事例を紹介しながら,基礎講義内容について,さらに理解を深めました。私は,後半の事例紹介につき,お話をさせていただきました。

 特に強調したのは,通報義務の重要性です。本講でテーマにしている施設従事者は,高齢者虐待の事実を発見した場合,通報をしなければなりません(高齢者虐待防止法21条)。しかし,現実問題としては,内部告発のハードルは高いことでしょう。実際,通報する方の属性をみると,「元」職員という場合も少なくないようです。職員時代には,告発する心理的ハードルが高いことの表れと思われます。しかし,このような内部告発が,虐待対応のきっかけになりますので,従事者が虐待に対するアンテナを張り,適切な対応ができるようにすることが,極めて重要です。また,緊急性のある事案もありますので,通報が適時に行われることも重要と思います。通報は,あくまで,虐待の早期発見のためのツールであって,通報=虐待者の処罰というわけでもありませんし,通報=施設への裏切りというわけでもありません。通報がなければ,その後の対応もありませんので,通報は極めて重要です。一方,施設側からすれば,必要がある場合には躊躇わず通報できる環境づくりが大切だということになります。

 虐待防止法は,虐待者に対する罰則を規定していません。虐待防止法は,その名のとおり,虐待「防止」のための法であって,虐待者を処罰するための法でも,そのための犯人捜しをするための法でもありません。虐待の犯人捜しをして,施設内部で処理し,虐待者を解雇するといったような対応だと,虐待「防止」の観点から,なんの解決にもなりません。法の趣旨をよく理解し,通報義務の重要性を理解し,必要な場合はその義務の履行ができるよう,研鑽を積んでおくことが必要であろうと思います。

 通報の方法について。虐待防止法では,通報義務については規定ありますが,通報の方法については規定がありません。事実確認の端緒となる通報そのものが重要で,通報を確保するため,匿名も許されると解されます。虐待の早期発見(法5条)のための情報収集が重要ですので,そのための方法については,柔軟な解釈が可能です。

 通報先について。基本的には,介護福祉課が対応することになると思われますから,介護福祉課に直接通報するのが確実です。ただし,行政としては,どこに通報しても,きちんと処理するようにしているとのことですので,とにかく連絡してみましょう。行政側の方には,改めて,通報の重要性を理解し,どこで連絡を受けても,適切な処理ができるような体制づくりをするようにお願いします。たらい回しになって,通報者が通報を止めてしまうということがないようにすべきです。通報を受けた後の対応は,行政の責務(法3条)ですから,その入り口となる通報の受け皿についても,適切な体制の整備が必要と思われます。行政側が,制度構築を含め,真摯な対応をしていき,実績を重ねていけば,それが信用となり,従事者側からしても,通報義務を果たしやすい土壌が整っていくものと思われます。ぜひとも,行政側においても,なお一層の努力をお願いしたいところです。

 通報者の保護について。通報に付随し得る不利益については,虐待防止法上もフォローが必要と考えられており,手厚い保護が図られています。通報によって,刑事責任は問われません(法21Ⅵ)し,施設側が解雇等の不利益取り扱いもできません(法21Ⅶ)。通報先から通報者が漏れることもありません(法23)。これだけ手厚い保護が図られているのは,それだけ法律上「通報」を重視しているということです。通報義務は,虐待防止法における「キモ」ともいうべきもので,ぜひとも,通報義務の重要性を確認していただけばと思います。

 通報があったら,これを端緒として,調査・事実確認(虐待認定)→具体的対応,と進んでいきます。

 ここで,虐待認定の難しさについて,コメントさせていただきます。たとえば,心理的虐待の要件は,「高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと」(その他のの前は例示)になっています。①「高齢者に…心理的外傷を与える言動を」しているかどうか,に加えて,②それが「著しい」かどうかという問題があります。著しいかどうかというのは,評価の問題も含まれます。判断が難しいです。複眼的な視点での検討が必要と思われます。 外部の眼において,複眼的視点で,虐待の防止を目指していくためにも,まずは通報により,外部に発信することは重要と思われます。施設内部において,偏った,単眼的視点のみにおいて検討されるなどといったことのないよう,改めて通報義務の重要性を確認しておきたいところです。

 具体的対応について,虐待防止法は,介護保険法や老人福祉法の定める権限を適切に行使するとのみ定め,具体的には,ケースに応じた柔軟な対応が求められています。たとえば,介護保険法に定める権限としては,調査の権限として報告徴収・立入検査,勧告・公表・措置命令,指定取消しなどが定められています。老人福祉法においても,(法の趣旨の相違から,要件は異なるものの,)類似の権限が定められています。そのほか,行政が,対象者に対し,任意の履行を期待する,行政指導の方法での対応もあり得ます(そのような例も散見されます。)。発想としては,虐待を防止するという目的のため,比較的ソフトな手段から強制的な手段まで,目的に応じた手段をとれるようにされていますので,事案ごとに適切な手段を検討していくことになります。まずは,行政指導により,対象者に任意に対応してもらうよう期待し,これにより効果が得られない場合,さらに強い(法定の)手段を講じていくという方法がとられるようです。

 では,虐待を防止するためには,どうすればよいのか。「虐待の芽チェックリスト」を利用してみましょう。多忙な職場で,やってしまいがちな行動が列挙されています。☑方式になっていますので,それほど時間もとられませんし,定期的に行うと,自分の振り返りにおいて役に立つと思います。職場で,定期的に職員からアンケートのような形で記載してもらい,これを分析・検討して今後の業務に活かすのもよいと思います。たとえば,私は,当初,学びたてのころ,「〇〇ちゃん」と呼ぶことについて,親しみを込めてそのような呼称をすることもあり得るので,「虐待」ということに違和感がありました。しかし,人生の先輩として経緯を示すべき高齢の方に対し,「ちゃん」付けは失礼であって,勉強をしていく中で,特別な必要があり複数人での会議で協議検討して慎重に決定したような場合でない限り,用いるべきでないという形で,考えが変わっていきました。虐待で難しいのは,自分が考えていることが必ずしも正しいとは限らないという怖さであるということを感じたものです。このチェックリストもそうですが,客観的にチェックできる何かを用意しておくと,自分を客観視出来て,有用だと思います。できれば,自分を指導してくれるようなメンターがいると理想的ですが,ぜひこの「虐待の芽チェックリスト」も,活用してみてください。

 そのほか,「セルフチェックリスト」も利用してみましょう。このチェックリストは,さきほどの「虐待の芽~」とは異なる観点から作られており,面白いと思いますので,ぜひ利用してみてください。どんな仕事も,やりがいがある反面,きついことやつらいこともあり得るものです。そんななかで,マイナスと思えるような思い・感情が「生じてしまう」こともあるでしょう。なかには,そのようなことを考えてしまう自分が嫌だと,自分を責めてしまう人もいるかもしれません。しかし,このセルフチェックリストは,人が生きている以上,そのような感情が生じることだってあり得る,それ自体が悪いことではないという前提でつくられています。その感情が「生じている」ことに気づき,「しっかりと手当てする」「助け合って対応できる環境をつくっていく」ことが大切だと考えるわけです。参考になる考え方だと思います。では,マイナスと思えるような思い・感情が心の中に「生じている」「ある」と気付いているけれど,「うまく対応できない」という方は,このチェックリストで,自分がどのような心理状態なのかを客観視した上で,対応・検討のきっかけにできると思いますので,ぜひご活用ください。

 最後に,1つ余談で,私の好きなエピソードを紹介させていただきます。「ニヤリホット」についてです。「ヒヤリハット」について記録しているところは多いかと思いますが,ある老人ホームは,「ニヤリホット」につき記録しているそうです。そこでは,思わずニヤリとしたり,ホッとした言葉や振る舞いを「ニヤリホット」と呼んでいます。たとえば,スタッフが目を離した隙に,車いすから立ち上がろうとした入居者がいた場合,通常は,「ヒヤリハット」として,見守りが強化されるでしょう。しかし,「ニヤリホット」の観点では,「歩こうとがんばっている」と記録します。この記録がケアマネの目に留まり,この入居者のケアプランは,自分で立つこと,歩くことを目指すものへと,変更になるそうです。小さな気づきを軽視せず,災害を未然に防ぐことは大切です。しかし,同じ物事をプラスに受け止めることもできます。「ニヤリホット」は,周囲への温かいまなざしから生まれるとともに,場を明るく和やかにする働きがありそうです。物事は,「見方によって変わる」という側面があります。「気付き」とともに,「プラスの見方」を推奨し,職場を,明るく和やかなものに,虐待の芽が生じにくいものにしていくことはできないでしょうか。

「虐待」研修会

平成29年3月1日,@吉富町フォーユー会館,民生委員向けの虐待研修会を行いました。民生委員がかかわることの多いであろう養護者による高齢者虐待を念頭に,通報義務の意義,通報義務が生じる場合(虐待の種類と法律上の要件),通報後の流れなどについて,具体的事例を交えながらお話ししました。 研修会後,複数名の感想として,「わかりやすかった」というお声をいただいたので,まずまずだったと思います。 民生委員向けなので,民生委員法なども検討したうえ,研修を行いましたが,講師側でもいろいろな発見がありました。 また今後も,このような活動を通じ,市民の住みよい街づくりに貢献していけたらなと思います。 このような機会を与えていただき,ありがとうございました。 enter image description here