私(西村幸太郎)の一連のブログ記事です。私がどういう人間なのか、どういう活動をしているのか、どんなことを考えているのか、どんな知識やスキルを持っているのか、信頼に足る弁護士か、などなど、たくさんの疑問をお持ちの方もおられると思います。そのような方々は、是非こちらの記事を御覧ください。

行政不服審査法関連三法:処分等の求め

地域では,行政に関する相談も多いようです。

先般,行政不服審査法が改正され,それに伴い,行政手続法も一部改正されました。ここでは,行政手続法に新設された,「処分等の求め」について書いてみます。

「処分等の求め」の制度とは,書面で具体的な事実を摘示して一定の処分又は行政指導を求める制度です。

【条文~ここから~】

 第四章の二 処分等の求め
第三十六条の三  何人も、法令に違反する事実がある場合において、その是正のためにされるべき処分又は行政指導(その根拠となる規定が法律に置かれているものに限る。)がされていないと思料するときは、当該処分をする権限を有する行政庁又は当該行政指導をする権限を有する行政機関に対し、その旨を申し出て、当該処分又は行政指導をすることを求めることができる。 2  前項の申出は、次に掲げる事項を記載した申出書を提出してしなければならない。 一  申出をする者の氏名又は名称及び住所又は居所 二  法令に違反する事実の内容 三  当該処分又は行政指導の内容 四  当該処分又は行政指導の根拠となる法令の条項 五  当該処分又は行政指導がされるべきであると思料する理由 六  その他参考となる事項 3  当該行政庁又は行政機関は、第一項の規定による申出があったときは、必要な調査を行い、その結果に基づき必要があると認めるときは、当該処分又は行政指導をしなければならない。

【条文~ここまで~】

違反状態をなおすために処分を行う行政の権限,行政指導を行う行政の権限が,つねに適切に行使されるとは限りません。このような権限を行使するには,違反状態の存在を,行政が,知っていないといけませんが,行政のインフラは限られており,規制の対象が広く追いつかなかったり,そもそも違反事実を認めるのが技術的に簡単ではない場合には,行政のみでは,違反事実にかかる情報を,十分に取得できないということが起こり得ます。その結果,いわゆる,「執行の欠缺」というべき事態(適切な執行が欠けている状態)が生じていました。さらに,たとえ違反事実を知っていたとしても,黙認してしまったり,法律の根拠に基づかない弱弱しい行政指導を繰り返すばかりで,有効な是正策を講じず,違反状態の継続を許してしまう事態が生じないとも限りません。こうした問題意識から,法令違反の事実を把握している者からの申出をきっかけとして,行政が必要な調査をし,その結果,必要があると認めるときに違反事実を是正するための処分又は行政指導をする制度をつくることで,行政手続法の目的である「行政運営における構成の確保と透明性…の向上を図り,もって国民の権利利益の保護」をはかろうとしたというものです。

行政不服審査法ではなく,行政手続法に定められたのは,この「処分等の求め」は,「何人でも」申し出ることができる制度であり,申出人個人の権利利益の侵害を要件とする行政不服審査とは一線を画すると考えられたからです。

非申請型(直接型)義務付訴訟などの制度が整備されていたとはいえ,訴訟要件も本案勝訴要件も厳しい状況でしたから,このような柔軟な制度ができたのは,喜ばしいことではないかと思います。

なお,処分の求めと行政指導の求めは,両方を求めることも可能です。申出人の氏名,住所等の個人情報は,個人情報保護法により,保護されます。

ただ,処分等の求めの制度は,あくまで,職権発動を促す制度と位置付けられているに過ぎません。この点は,再考の余地があると思われます。このあらわれとして,申出人に,申出を受けた調査結果や是正措置について,通知を求める権利を与えてはいません。実務上,通知を行うべきと思いますが,法律上も,明確に書いておくべきだと思います。

以上,簡単でしたが,制度の紹介でした。活用例を積み重ね,行政の良質なサービスの提供につながればよいなと思います。