私(西村幸太郎)の一連のブログ記事です。私がどういう人間なのか、どういう活動をしているのか、どんなことを考えているのか、どんな知識やスキルを持っているのか、信頼に足る弁護士か、などなど、たくさんの疑問をお持ちの方もおられると思います。そのような方々は、是非こちらの記事を御覧ください。

法律のイメージ

日経新聞の名物コラム「私の履歴書」。

少し時間がたってしまいましたが,11/4(水)のコラムに興味深い記載がありましたので,ご紹介を。

三菱総合研究所理事長・小宮山宏氏の記事が展開されています。私が注目したのは。大学生のときの,法学を学んだときの話。

「法学も面白かった。教えてくれたのは伊藤正己教授。後に最高裁判事になる方である。最初の講義で「法律は言葉で表すが,言葉で全部書けるものではない。言葉の意味は時代によって変わるし解釈だ。結局,どう解釈するかで決まるから,判例の積み重ねで社会の法的秩序は維持されている」と述べられた。抱いていた法律のイメージが崩れた。」

もともと,法律にどんなイメージをもっていらっしゃったのでしょうね。何でもカチっと決まっていて,決まった法律の条文を読めば何でも解決するといったようなイメージでしょうか?そうであるとすれば,私も,確かに,勉強する前は,六法全書を全部覚えて,その知識で何でも対応できるのだろうくらいのことを考えていました。でも,世の中と人間いうのは,知れば知るほど複雑で,一筋縄ではいかなくて,法律も人間生活を円滑にした梨よりよくしたりするための道具でしかない。その法律も穴があることも多く,そのときは道具である法律そのものを変えていく。日々動いている法律の世界は,難しく,それでいて面白いものだと思って,実務に取り組んでおるところです。

伊藤正己教授の言葉となると,(主に法曹関係者において,)興味を惹かれる方もおられるだろうと思い,ご紹介いたしました。

コンプライアンス研修

平成30年2月28日,豊前市役所職員向けに,コンプライアンス研修の講師を担当させていただきました。

「不正のトライアングル」(①動機,②機会,③正当化)について紹介をした上,私生活上の事情が不正の背景となりやすいこと,陥りやすい私生活上の問題,不正防止の体制整備,最後に法規範を乗り越えて犯罪に走らない高い倫理観の涵養などの諸点について,具体的にお話しさせていただきました。

200名ほどを前にお話しするのは緊張しました。 少しでもご参考いただけると幸いです。

当事務所は,研修会・講演会の講師なども積極的に行っています。ご用命の方は,ぜひお声掛けください。

5時に帰るドイツ人,5時から頑張る日本人

「メメント・モリ」とは,ラテン語で,「自分がいつか必ず死ぬことを忘れるな」という意味です。ドイツ人は,この言葉を噛みしめ,若いころから,休暇を十分に楽しむ風習があるそうです。

ドイツと日本の働き方を比べながら,日本の労働環境に警鐘を鳴らす,興味深い本を読みました。熊谷徹「5時に帰るドイツ人,5時から頑張る日本人」。三波春夫氏が広めた「お客様は神様」といい言葉があらわすように,過剰ともいえるサービスを競い,顧客もそれを求める日本と,サービスはそこそこでも寛容なドイツ。労働時間の長さが評価されかねない日本の風土と,残業を許さないドイツの風土。ドイツは,1日10時間を超える労働は法律違反で,管理職も,徹底して,退社を推進しています。日本も「働き方改革」として,労働時間の制限を検討しているものの,とても十分な内容とは思えないのが現状ですが,ドイツのように法律で強制力をもって長時間労働の禁止を徹底するぐらいではないと,これまで築いてきた日本の風土を破って改革をするのは,難しいのかもしれません。

日本でNHK記者として働いたのち,実際にドイツで暮らしてきた経験を踏まえ,比較法的に働き方について考えていきます。日本においても長時間労働,残業を許さない風土,社会的合意を形成するためにどのような取り組みが有効か,考えていく上でのヒントになるかもしれません。高橋まつりさんの事件の教訓を風化させないよう,労働者皆が,そして使用者も,きちんとした関心をもって議論していく上で,このような本は大変参考になるのではと思いました。

刑法改正について(主に性犯罪関係)

平成29年6月16日成立・平成29年7月13日施行,刑法が改正されました。感触として,この話,結構話題にのぼることが多いように感じるので,概略をメモしておきます。

改正の全体像; ①性犯罪の非親告罪化 ②「強姦罪」から「強制性交等罪」への変更 ③監護者による性犯罪に関する規定の新設 ④性犯罪に関する法定刑の引き上げ

①性犯罪の非親告罪化について; これまで,強姦罪などは,被害者の告訴がなければ,刑事裁判ができませんでした。被害者のプライバシー情報が,公開の法廷で公になってしまうからです。このたび,告訴がなくても,裁判ができるようになりました。被害者のプライバシーとの折り合いをどうつけるかが課題といえます。 改正刑法施行前に犯した罪については,施行の際すでに法律上告訴がされることがなくなっているもの(告訴が取り消された場合など)を除き,施行後は,告訴がなくても起訴が可能になります(経過措置)。 これまで,示談ができれば,告訴取下→起訴されないということがありました。しかし,今後は,示談したからといって,必ず起訴されないというわけではなくなったといえます。影響は大きいかもしれません。

②「強制性交等罪」へ; これまで,強姦の客体は女性に限られていましたが,これからは,暴行または脅迫を用いた「性交,肛門性交又は口腔性交」(性交等)を「強制性交等」と定義し,男女の別なく,刑法の適用があることになります。

③監護者による性犯罪に関する規定の新設; 18歳未満の者に対し,その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為をした者や性交等をした者は,暴行又は脅迫を用いない場合であっても,「強制わいせつ罪」「強制性交等罪」と同様に処罰されます。 性的虐待に対する厳しい姿勢を示した改正といえるかもしれません。

④性犯罪に関する法定刑の引き上げ; 強姦罪 3年以上の有期懲役 → 5年以上の有期懲役, (準)強姦致死傷罪 無期又は5年以上の有期懲役 → 無期又は6年以上の有期懲役, 従前の「集団強姦罪」「集団強姦致死傷罪」は,削除される。従前でいう強盗強姦罪も,強姦強盗罪(?)も,強盗・強制性交等罪(無期又は7年以上の有期懲役)で統一。

広大ロー公法系科目・聴講

先週になりますが,平成29年7月8日(土)13:30~18:30,母校広島大学ロースクールで,公開講座及び講演を聴講しましたので,少し書いてみます。

憲法学者で著名な慶応大ロースクールの小山剛先生は,これまた司法試験受験会では著名な「『憲法上の権利』の作法」の著者であり,「権利の制限」と「制度形成(立法裁量)」の関係につき,踏み込んだ議論を展開されている先生です。1度,生の講演を聞いてみたいと思っていましたが,叶ってよかったです。権利が制約されているのか否かという問題につき,たとえば夫婦別姓の最高裁判例などを紹介しながら,わかりやすく説明いただきました。私が書きすぎると,内容が陳腐になってしまいますので,この辺りでとどめます。

こちらも公法界で著名な弁護士である,大島義則先生,伊藤建先生の講義も聴講しました。 大島先生は,改正個人情報保護法下において,匿名加工情報・ビックデータに関する問題を検討・開設されていましたが,大変勉強になりました。改正個人情報保護法では,いわゆる「5000人要件」が撤廃され,小規模で個人情報を扱う数が少ない業者でも法適用の対象になります。弁護士も,これまで,個人情報保護法が適用されづらかったですが,今後は,適用されることに争いがなくなると思います。よく勉強しておかなければと思います。 伊藤先生は,薬事法判例を詳細に分析しながら,経済的自由が問題になり,複合目的の法令の検討が必要な場合につき,深めていきました。とても話が上手で,いろいろ小ネタをはさみながら(笑),お話をされていました。私の今後の講演活動の参考にもなるなぁなどと感じながら,聞き入ったものでした。

たまには,人の話を聞きに行ってみるというのも,面白いですね。恩師から懇親会への参加許可までいただき,大変意義深い一日を過ごすことができました。

メンタルと法律問題

電通の過労死事件など,痛ましい事件が後を絶ちません。現代社会を生きる人々にとって,メンタルの問題は,避けて通れないようです。

メンタルの問題と法律がどうかかわるのか。たとえば,メンタルをやられてしまっている原因が借金にあるのであれば,債務整理という形で弁護士が関与し,その方のフレッシュスタートをサポートすることができます。以前,「お金のことで死ぬなんて,馬鹿らしい」と述べていた方がいたと思いますが(誰のことばかは忘れてしまいました。),弁護士の立場からは,少なくとも借金の整理については,贅沢を言わなければ,さまざま対応が可能な分野だと思います。離婚など,人生の一大事に関しても,できるだけ前向きな協議離婚/調停離婚ができるようにお手伝いするなど,弁護士が対応できることがあると思います。企業におけるメンタルヘルス対応に関しても,就業規則作成の段階で,どのようなメンタル対策の制度設計をすればよいか一緒に考えるなど,お手伝いできるものと思います。

では,実際,メンタルをやられてしまったら… 過労死に関しては労災民訴という形で対応したり,事後的な対応はあり得ますが,やはり,問題が生じる前に対処できるのが1番です。主に,個人個人での対応における参考になるものだと思われますが,最近読んだ本(マンガですが)で,「死ぬくらいなら会社辞めれば←ができない理由(ワケ)」「うつヌケ」という本が非常に参考になりましたので,一部ご紹介させていただいた上,本稿を締めくくらせていたきたいと思います。

・「死ぬくらいなら会社辞めれば←ができない理由(ワケ)」

ヤバイな,と思ったら,これだけは忘れないで欲しい。「世界は,本当は 広いんです。」 / こんなナゾナゾを思い出してほしい。「世界を一瞬で消す方法は?」-こたえ「その目を閉じればいいだけ」 / 「なにが君のしあわせ なにをしてよろこぶ」(byアンパンマンマーチ) / 「うらやむ」=自分をその人の位置まで高めたいと思う 「ねたむ」=その人を自分んオ位置まで落としたいと思う 「うらやむ」は自分次第,幸せになれるのは「うらやむ」 / 「命てんでんこ」の精神…地震や津波のときは「周囲の人間の安否よりまず自分の安全を確保する」という考え方 / がんばらない,無理しない,配慮しない,自己中心的,起きない,立たない,やらない,逃げる,寝る,さぼる,人まかせ  /

・「うつヌケ」

うつの原因は「自分をキライになったこと」→自分を好きになればいい / アファーメーション(肯定的自己暗示)…朝目覚めた時「自分を誉める言葉」を唱えるだけでよい / うつには「突然リターン」がある / うつを重くしているのは「はげしい気温差」(?!) / ヒポコンドリー性基調者 / うつになってしまったら,自分を否定する者からは遠ざかり,自分を肯定してくれるものに近づこう / ささいなことでもいいので必要とされている役に立っていると実感できる瞬間を待とう!! /

ミイラとりがミイラにならないよう,私も,メンタルヘルスには気を付けたいと思います。

携帯電話の売買をめぐって

本日,平成29年6月28日の西日本新聞のコラム「ほう!」な話は,消費者委員会枠です。消費者の身近な携帯電話の売買をめぐる法律知識について,改正電気通信事業法の知識も交えながら,解説しています。少し時間は経過しましたが,改正法に関する話でもあり,知っていて損はないのかなと思います。ぜひご一読ください。(もちろん,私が執筆したものです。)

~新聞記事より~

Q 電話で「もう1台携帯を持って,使い分けてはいかがですか」と勧誘され,スマートフォン本体を購入しました。その後,家の近くの店で,スマホで通話できるよう契約を結んだのですがよく考えると,2台も必要ないことに気づきました。解約はできますか。

A 相談者の場合①電話機本体の売買契約②電話機を利用するための電気通信サービス提供契約-の2つの契約を事業者と結んでいます。  ①は電話勧誘販売ですので「クーリングオフ」(特定商取引法)を検討しましょう。契約書などの法定書面の交付を受けた日から8日以内であれば,理由なく契約を解除できます。  ②は勧誘によらず,相談者が店頭で契約しているのでクーリングオフは適用されません。しかし携帯電話の通信サービスなどについては利用者保護のため法律が改正され,一定の場合は解除できるようになりました。 利用者は,法定書面を受け取った日(サービスの提供がそれより遅いときはサービス開始日)から8日間は,理由なく契約を解除できます。ただし解除までの間通話などしていた場合は通話料などの費用は負担する必要があります。この点,支払った金額が原則すべて返金されるクーリングオフとは違い「初期契約解除」制度(電気通信事業法)と呼ばれています。  手続は,いずれも書面でする必要があります。配達証明付内容証明郵便がお勧めです。

~新聞記事より~

弁護士に依頼するメリット・デメリット

ご依頼者様は,弁護士に対し,なんらかのメリットを感じて,依頼するものと思われます。弁護士も,それを受け止めながら,依頼者の利益が最大化されるよう,尽力します。その対価として,報酬をいただきます。

弁護士に依頼するメリット・デメリットとは,なんなのでしょうか。以下,少し,まとめてみたいと思います。 (①②③…のナンバリングは,それぞれ対応しています。)

メリット:①第三者の目から見た客観的な視点で事件を整理・処理できる。②専門家の方が,手際よく解決が期待され,すべて自分でやるよりも,時間も手間も省くことができる。③弁護士に一緒に考えてもらえる。それにより,自分の精神的負担も減らすことができる。④法治国家である日本において,法律に関する専門的知見をもとに,事件の解決を期待することができる。

デメリット:①事件の事実を経験し,事実をよく知っている当事者以外の人が判断する。②専門家の意見が本人の意向と一致するとは限らず,場合によっては,余計に迂遠な解決になる危険性も否定はできない。③事件が自分の手から離れる。(弁護士との信頼関係が重要。)④弁護士の法的知見について悖る可能性がないとはいえない。

弁護士の事件処理において,ご依頼者様との信頼関係は,必要不可欠です。私も,常々,①傾聴=事実についてよくお聞きする。②十分な説明を行う。③専門家としての意見は述べつつも,依頼者と一緒に考え,事件の解決を目指す。④常に研鑽を怠らない。ということを心がけ,その上で,ご依頼者様に,弁護士に依頼するメリットを感じていただきながら,気持ちよく,ご依頼をいただきたいと思っています。

ご依頼者様は,決して安くはない費用をお支払いいただき,弁護士に事件処理を依頼するのですから,弁護士の事件処理の内容を透明化し,弁護士が報酬にみあうだけの働きをしていることを実感してもらうということも,心がけています。弁護士は,ご依頼者様の人生の一大事,お困りごとによりそうものですから,ご依頼者様の意向を尊重し,法的に可能な範囲で,ご依頼者様の利益が最大化できるよう,努力することは,当然です。

一方,報酬に関し,安易な値引きは,まるでご依頼者様のお困りごとを安く見積もっているようで,抵抗があるものです。弁護士は敷居が高い,費用が高いという声は根強く,「市民に力を」を経営理念とする当事務所としては,大変悩ましいところですが,「適正」な費用の見積もりができるよう,常に頭を悩ませており,当事務所では,求めがあれば,できる限り詳細な見積書を作成させていただいているところです。

ご依頼者様には,気持ちよくご依頼いただき,強い信頼関係のもと,一緒に事件の解決を図っていきたい。なかなか難しいことではありますが,これからも悩みながら地域のために尽力していく所存ですので,どうぞよろしくお願いします。

GPS捜査=強制捜査 判決 つづき

別件の調査のため,いろいろと文献をあさっています。福岡を代表する上田國廣先生,美奈川成章先生の記念論文集「刑事弁護の原理と実践」という本があります。つい最近出版されたものです。何気なくこれをチェックしていると,「追尾監視型捜査の法的性質ーGPS利用捜査をめぐる考察を通して」(指宿信)という項がありました。先日の最高裁判決を思い出しながら,目を通してみたものです。

GPS捜査が任意捜査か(必要かつ相当であればOK)強制捜査か(しかるべき令状がないとNG)という議論については,従来より両説あったようですが,X線検査を強制捜査として検証令状を求めた最決平成21・9・28にて,①捜査の技術的特質,②プライバシー侵害の大きさに着目した判断(X線捜査=強制捜査=検証令状必要)が示されたこともあり,可視性のない非接触型の捜査手法についても,一定のものさしが示されたといいます。加えて,平成24年,合衆国最高裁判所で,GPS発信装置を無断で警察が装着していた事案について修正4条違反であると示されたことで,学界での議論が活発になったとのこと。GPSは,ⅰ)長期性,ⅱ)包括性,ⅲ)記録性といった特徴をもち,プライバシーの制約が大きいので,強制処分であるという趣旨の見解も示されており,事前事後の法的規制が必要であるということを述べておられます。おおむね最高裁判決に沿うような見解だとお見受けしました。

やはり,判決が出るまでに,さまざまな議論の蓄積があるのだなと感じたところです。同判決の事案の弁護団長も,外国の違憲判決が出ているのに,日本では当然のようにGPS捜査が行われており,これは大変なことだと思ったとコメントしているようです。実務家として,ビビッドな情報を常に収集しておく必要があるのだなと,改めて感じた次第です。

GPS捜査=強制捜査 判決

すでに新聞等でも報道されていますが,平成29・3・15,最高裁大法廷にて,注目すべき判決の言渡しがありました。GPS捜査は強制処分=令状が必要であり,検証令状など現行法上の令状で十分か疑義があるので,立法的措置が望まれるという内容です。

この事案では,ある窃盗事件の,①(目的)組織性の有無,程度や組織内における被告人の役割を含む全容解明の捜査として,②(期間)約6か月半,③(範囲)被告人,共犯者,被告人の知人女性(交際相手)も使用し得る④(対象)自動車19台に対し,令状なくGPSで移動状況を検索しています。

感覚としては,期間,範囲,対象ともに数字が大きいように思います。なかでも,最高裁がわざわざ知人女性の車両を使用し得る蓋然性に触れているところからすれば,この点を特に重視されているのかなと思いました。余計な(犯罪捜査に無関係な)情報を広く取得してしまうことの問題性に対し,警鐘を鳴らしているものと思われます。

私が,司法試験受験時代,問題集などで検討した際は,機械を用いて追尾するという形での捜査は,任意捜査で必要かつ相当な範囲で認められるという筋での議論が多かったような記憶があります。GPS捜査は「尾行の補助手段」という説明も,よく見かけるところです。そうした説明と比べると,今回の最高裁判決は,確かに,これまでとは一線を画する,注目すべき判決なのだと思います。

最高裁が,特殊な局面で令状の話に触れるときには,いわゆる強制採尿令状(最決55・10・23,最決平成6・9・16。「強制採尿は,医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせなければならない。」「強制採尿のために必要があるときは,被疑者を採尿するに適する最寄りの場所まで連行することができる。」などといった条件を付した上での捜索差押令状により,強制採尿を行う実務が確立した。)の議論を思い出します。この議論においても,検証令状,捜索差押令状のどちらを利用するにも問題があったので,条件付捜索差押令状という形でその問題性をカバーし,最高裁が強制採尿令状という新たな令状を創造したとも評されているところです。一方,平成29・3・15最高裁判決では,さらに,既存の令状では疑義があり,立法的措置が必要だとまで判断しており,かなり踏み込んだ内容での判決になっていると思います。

X線検査を強制捜査として検証令状を求めた最決平成21・9・28など,近頃は,最高裁が,捜査の必要性に対し,人権の保護のために,かなり踏み込んだ判断をするようになってきていると感じます。報道をみていると,「捜査の現場をなにもわかっていない」という声もあるようですが,必要だから適法だという論法では,許容性の議論がかけています。最高裁も,必要性を否定しているわけではなく,「(令状という)やり方についてもっとよく考えてね」というメッセージを発しているに過ぎないので,むしろ立法府に,現場に対する理解を求めつつも,適切な「やり方」を考えるように求めてほしいと思いました。

この判決を勝ち取ったのが,登録後10年未満の若手弁護団だというのも,勇気づけられるところです。結局,被告人の無罪を勝ち取れなかった点は残念だと思いますが,少なくとも捜査法上の問題点に大きな一石を投じることができた点は,非常に意義があることと思います。私も,日々,小さな石でもいいので,一石を投じ続けていきたいと思いました。