私(西村幸太郎)の一連のブログ記事です。私がどういう人間なのか、どういう活動をしているのか、どんなことを考えているのか、どんな知識やスキルを持っているのか、信頼に足る弁護士か、などなど、たくさんの疑問をお持ちの方もおられると思います。そのような方々は、是非こちらの記事を御覧ください。

「ビジネスパーソンのための 契約の教科書」

みなさまは,日々,契約書をつくっていますか。私たちの日常は,日々の買い物(売買契約)をはじめ,住居の賃貸(賃貸借契約),お仕事の関係(雇用契約,委任契約)などなど,契約で満ち溢れています。法律家の立場からは,「契約書は大事です。契約書をつくりましょう。」とアドバイスするのですが,実際,なんでもかんでも契約書をつくってられないという事情もよくわかります。さて,みなさまに使えるアドバイスをするには,どうすればよいかな…と,日々頭を悩ませているわけですが,最近読んだ福井健策「ビジネスパーソンのための 契約の教科書」がわかりやすく参考になったので,少しご紹介させていただきたいと思います。

著書は,結論として,3つの黄金則をかかげています。

①契約書は読むためにある ②「明確」で「網羅的」か ③契約書はコスト。コストパフォーマンスの意識をもつ。

著者自身は,「あまり新鮮味のない」と謙遜されておられますが,なるほどなと思ったところです。

著者の説明は,本を読んでいただければわかるので,以下は,私なりに解釈・理解したところを記しました。

①契約書は,間違っても,押印するためだけにあるのではありません。民法学者川島武宜の名著「日本人の法意識」(岩波新書)は,「我われ日本人は法律や契約を単なる建前と考える傾向が強く,よって必ずしも重視せず,実際にトラブルがあっても話し合いや人間関係で解決に至ると考えがち」であると指摘しています。日本人の考えは,和を尊ぶものとして,尊重されてしかるべきだとは思いますが,だからといって,後からなんとかなる(する)から,契約書を作らないでよいということにはなりません。むしろ,もめごとを回避したいという日本人の法意識からしても,本来,契約書をつくり,内容をよく練り,納得の上で契約をするというのが大事なのではないか。相手方が,親切にも書面をつくってくれたので,なかみも読まずに「変なことは書いてないだろう」と印を押してしまうのはやめましょう。その行為は,せっかく相手が契約内容を詰めようと考え,手間暇かけてつくった契約書を軽んじるような行為とも言うことができ,逆に相手に失礼とも言えるかもしれません。契約書を読むのです。読んで,理解して,理解できないところがあったら誰かに聞いて,そして困るところがあれば直してもらう。あらゆる契約書は,そのためにあるのです。「読まずにこの場で印鑑を押せ。」という空気を感じたら,遠慮せずに,「では,持ち帰って読ませていただきます。」と言いましょう。これがビジネスシーンであれば,ビジネス相手は,その「空気」を利用しているのかもしれませんよ。

②契約書を作るメリットは,ⅰ)後日の証拠,ⅱ)背中を押す・腹をくくる,ⅲ)手続上の必要,ⅳ)意識のズレ・見落し・甘い期待の排除など,さまざまです。契約書には,取引において交渉漏れはないか,プロジェクトを検討するにあたって見落しはないかなどの「チェックリスト」としての機能もあり(ⅳ),契約書を作成する側からは,この機能も見落とせません。「こんなはずじゃなかった」という場面を防止できるにはよい方法です。似たような取引を今後も行うのであれば,今回の取引で不都合が出たところを,今回の取引の契約書に追加していくことで,ノウハウの蓄積にもなります。そうやって,網羅的に検討した内容を明確に書面化すれば,限りなくもめごとを減らせるのではないでしょうか。「明確に」書面化するのが,契約担当者(契約書作成者)の仕事です。「二義を許さない」(他の意味にはとれない)ような文章を目指しましょう。やり方は簡単です。自分ではない他の人にチェックしてもらって,自分の考えているとおりに読んでもらえるかを見ていけばよいのです。

③契約書を作成するデメリットは,手間・時間・費用といった「コスト」です。契約書をつくるかどうかは,さきに述べた契約書作成のメリットが,コストを上回るかどうかで判断すればよいでしょう。契約書作成のメリット>コスト,です。コストの方が大きいなということであれば,今回は見積書も出したし大丈夫だな,覚書程度は書いた方がいいかな,いやFAXで簡単な書面を送れば十分だろう,ええい金額も小さいしメールで十分だ…など,こうした判断や交渉ができて,力を注ぐべきところとそうでないところが区別できるのが,本当の契約巧者ではないでしょうか。

なるほど。私も,契約書作成にコスト意識をもって,日々の経営や業務に勤しんでいきたいと思います。