私(西村幸太郎)の一連のブログ記事です。私がどういう人間なのか、どういう活動をしているのか、どんなことを考えているのか、どんな知識やスキルを持っているのか、信頼に足る弁護士か、などなど、たくさんの疑問をお持ちの方もおられると思います。そのような方々は、是非こちらの記事を御覧ください。

高齢者の消費者被害防止講演会について(@香椎)

平成30年10月29日,香椎下原公民館にて,民生委員や福祉施設職員向けに,高齢者の消費者被害防止講演会を行いました。各地で行っており,私も何度も担当させていただいております。

事前予防の重要性,アンテナが張れるような知識の習得や,事後的な対応としてクーリングオフなどの知識を習得できることを目指しました。

同講演会のなかで,福岡県警察による,最近の被害の手口についても,紹介をいただきました。最近は,百貨店や警察を語るオレオレ詐欺が多発中なのだそうです。

Aさんの自宅に,有名百貨店を騙る電話が。

「●●百貨店ですが,本日,キャッシュカードを使って,宝石を購入しませんでしたか?」「覚えがないようでしたら,不正利用かもしれませんので,警察に連絡をいたしますね。」

  ↓

電話が切れた直後,さらに,警察を騙る電話が。

「●●署の者ですが,あなたのカードが偽造されて,犯人が宝石を購入したようです。」「口座保護のために,残高いや暗証番号を教えてください。」

Aさんは,慌てて教えてしまいます。

  ↓

ニセ警察官は,「そのカードは使えないので預かりますね。」「ご自宅に警察官を派遣しますね。」などと告げ,電話中に代理人をAさんの自宅に寄越し,これを信じてしまったAさんは,ニセ警察官に,カードを渡してしまったのです。

…というのが,最近の手口なんだそうです。

警察官が,電話で口座番号や暗証番号を聞くことはありませんし,他人にキャッシュカードや通帳を渡してはいけませんね。また,ニセ電話詐欺被害防止機器(家電量販店で購入可能)の購入を検討しましょう。「この電話は,被害防止のため,録音しています。」とアナウンスが流れ,実際に,録音をするようになって,被害防止をしてくれるそうです。

みなさま,消費者被害には気を付けましょう。

講演会の写真を撮り損ねたので,今回は,文章のみで失礼いたします。

身体拘束ゼロを目指すために

平成30年8月17日,@ウェルとばたにて,2018年度夏の権利擁護研修が開催されました。この研修は,概略,北九州弁護士会もかかわり(なかでも高齢者障害者委員会が中心になって行う),福祉関係者とともに,丸1日かけて,虐待に関する研修を行うというものです。私も,毎年,参加させていただいております。多数の参加者がおり,午後のバズセッションでは,用意された事例に関し,活発な議論,意見の交換がなされていました。

午前中は,講演形式の研修でした。弁護士サイドでは,「身体拘束ゼロを目指すために」と題して,虐待の5類型のなかでも身体的虐待,そのなかでも身体拘束の問題を取り扱う講演を行いました(私は聴講していただけです。発表者の先生方は,お疲れさまでした。)。備忘も含め,内容を簡単に描いておきたいと思います。

安全確保のため,高齢者の身体拘束が必要な場合もあるのではないかという議論があります。しかし,安全を確保するには,むしろ,①転倒・転落を引き起こす原因の分析や,②事故を防止する環境づくりが大事。せん妄状態だから転倒などの事態が生じるのか?トイレに行きたい?何か物を取りたい?同一体位による身体的苦痛がある?不安や寂しさなどがある?対象者がどんな人で,どうしてそのような行動をしているかを考えれば,安全確保のための工夫ができるかもしれません。さらに,環境的な問題も大事です。ベッドの高さ,椅子の位置,床が滑らないか,物が届くところにあるかなどの物理的な環境や,対象者が用事を頼みやすいか,コミュニケーションがとりやすいかなどの人的な環境,チューブ類が目につく位置にあるか,薬剤による影響はないかなどの治療環境などに注意すると,安全確保の工夫のきっかけができるかもしれません。

人手不足は身体拘束の理由にはなりません。身体拘束をしなかったことのみで安全確保の措置を講じなかったと評価されるようなことはありませんし,逆に,身体拘束をしたことについての違法性が問われることは,十分に考えられます。身体拘束が許されるのは,「緊急やむを得ない場合」,すなわち,①切迫性,②非代替性,③一時性の要件が充たされたときのみ。最判H22.1.26は,当時80歳の女性が,入院中病院のベッドに不当に拘束され苦痛を受けたとして,病院に対し,損害賠償請求をした事案ですが,高裁と最高裁で身体拘束が許されるか否かの判断が別れました。現場の方がこれを判断するのは容易ではなく,基本的に身体拘束は許されないという態度でのぞむべきでしょう。

もし,万が一,身体拘束が避けられない場合は,手続面も注が必要です。個人で判断するのではなく,施設全体で判断すること。委員会等の設置がのぞましい。利用者や家族に十分に説明し,理解を求めること。利用者の状態を常時見守り,必要がなくなればすぐに身体拘束を解除すること。その態様及び時間,利用者の心身の状況,「緊急やむを得ない場合」と判断した理由等を記録すること。このような手続を踏んでいく必要があるでしょう。

身体拘束はあくまで例外的なもので,現場の人がどのような悩みを抱え,どのような場合に身体拘束が避けられず,それがやむを得ず行われるのか,身体拘束についてどのような態度でのぞむべきか,大変勉強になりました。

講演では,ユマニチュードやパーソン・センタード・ケアなど諸外国の取り組みについても報告がありました。私も,これから引き続き,勉強していきたいと思った内容でした。

私も,福祉にかかわる法曹として,今回の研修も参考にしながら,日々邁進していきたいと思います。

遺産分割についてー1-

紛争性が高く,解決困難な事件類型として,遺産分割に関する問題が挙げられます。

遺産分割は,いくつもの法的論点がからみあい,遺産分割そのもののほかに,遺産分割の前提問題,遺産分割の付随問題があります。

遺産分割の付随問題とは,使途不明金・葬儀費用の負担・家賃・配当金・遺産管理費用・相続債務などに関する問題です。のちに述べるとおり,遺産分割そのものの問題ではありません。

なかでも,使途不明金は,付随問題とはいうものの,遺産分割4大論点と言われるほど,難しい問題です(ほかの3つは,①遺産の範囲,②特別受益,③寄与分。そして,④使途不明金というわけです。)。

さて,遺産分割というのは,弁護士にとっても,難しい問題だと書きました。整理しながら進めなければ,建設的な協議はできません。ここで,遺産分割調停においては,ある程度,進行の仕方が定まっていますので,これを参考にするとよいと思います。詳しくは,判例タイムズNo.1418「東京家庭裁判所家事第5分における遺産分割事件の運用」を参照されるとよいと思います。

①相続人の範囲,②遺産の範囲,及び③その評価を確定し,次いで,④各相続人の取得額(特別受益・寄与分の有無とその評価),⑤遺産の分割方法につき当事者の主張(意見)を整理することとし,各論点について対立点があるときはこれを調整して合意を形成する等して,段階的に手続を積み重ねていって,調停の成立又は審判による終局解決を目指しています(段階的進行モデル)。

手続選択についてですが,調停では,遺産探しは一切してくれませんので,最終的に,判明している遺産だけを対象にして調停し,判明していないものについては調停から外して処理するしかありません。仮に,遺産分割調停のなかで,遺産探し,使途不明金の問題が出てきたら,遺産範囲確定の問題(上記①の問題)として,多少の協議はできますが,まとまらないと,調停から外すとせざるを得ないわけです。使途不明金については,訴訟で解決となります。

遺産分割の対象となるのは,以下の5要件をすべて充たす場合です。

①相続により取得した遺産である。(遺産要件),②相続時に存在する。(遺産要件),③分割時にも存在する。(遺産分割対象要件),④未分割である。(遺産分割対象要件),⑤積極財産である。(遺産分割対象要件)

使途不明金としてよく問題となる,相続「後」の預金無断解約は,③の要件を満たさず,相続「前」の預金無断解約は,②を満たさないので,使途不明金問題は,遺産分割調停の対象にならないのです。この点は,よく間違われるため,注意が必要です。

私も,対立の激しい使途不明金問題を担当したことがあります。これに関する記事,遺産分割に関するより詳しい記事を,追って,いろいろと書いていきたいと思います。

成年後見人の仕事って?(日経新聞所感)

平成30年6月27日(水)日経新聞の夕刊(5面)に,「成年後見人の仕事って?」というタイトルで記事が。夕刊は,主婦層向けの記事も多いと聞きますが,家庭における成年後見制度への関心のあらわれでしょうか。

記事のなかには,「認知症の人が約500万人とされる中で17年末の成年後見制度利用者は約21万人。いかにも少ないね。」などといった記述も認められます。「制度が始まって20年近くたつのに中身があまり知られていないのが原因らしいわ。」とのことですが,エビデンスはあるのでしょうか。親族が,被後見人の財産管理に第三者が介入してくることを歓迎しない傾向にあることが,大きな理由のように思うのですが…豊前市はどうなのか,気になるところですね。

成年後見の申立ての動機は,「預貯金などの管理・解約」と「介護保険の契約」が合計で全体の約50%を占めるそうです。見事に財産管理権の典型と,身上監護権の典型ですね。記事のシナリオは,父親の預金を下ろしにいったら,銀行の担当者から,成年後見制度を利用して成年後見人を選ばないと引き出せないなどと言われ,制度の利用を検討するケースになっていますが,むしろ,銀行が,どのような基準で,これを選別しているのかが気になりますね(ATMでの取引ではなく窓口取引の想定ですが,ATM利用においてふるいにかけれるのか?も気になります。)。

当初は親族後見人が90%台だったのに,17年には26%にまで落ち込んでいるなどという統計も紹介されています。親族後見人の負担が重いから専門職後見人が台頭しているというような記事でしたが,実際は,不祥事対策という面が大きいのではないかと思います。

豊前市も,高齢者が人口の4割と言われておりますから,成年後見制度の適正利用は大きな課題と思いますが,まずはこのような統計の分析をするのも有用だなと思いました。豊前市の統計,地域の統計が入手できると1番良いのですが,どうすればよいですかね…

引き続き,悩みながら頑張っていきたいと思います。

講演:養介護施設従事者による虐待について

 平成29年8月18日,北九州市と北九州弁護士会が毎年開催している,高齢者・障害者研修会。本研修で,今回は主に養介護施設従事者による虐待にスポットライトをあて,講義の一部を担当させていただきました。当日お話しした内容と異なる部分もありますが,シナリオの内容につき,多少修正を加えた上で,ご紹介させていただきます。

 行政の方から,身体的虐待のうち,身体拘束に焦点をあてた説明と,統計の分析につき解説をいただきました。弁護士のパートでは,前半,高齢者虐待防止法(特に養介護施設従事者による虐待について)の解説をいただき,後半,事例を紹介しながら,基礎講義内容について,さらに理解を深めました。私は,後半の事例紹介につき,お話をさせていただきました。

 特に強調したのは,通報義務の重要性です。本講でテーマにしている施設従事者は,高齢者虐待の事実を発見した場合,通報をしなければなりません(高齢者虐待防止法21条)。しかし,現実問題としては,内部告発のハードルは高いことでしょう。実際,通報する方の属性をみると,「元」職員という場合も少なくないようです。職員時代には,告発する心理的ハードルが高いことの表れと思われます。しかし,このような内部告発が,虐待対応のきっかけになりますので,従事者が虐待に対するアンテナを張り,適切な対応ができるようにすることが,極めて重要です。また,緊急性のある事案もありますので,通報が適時に行われることも重要と思います。通報は,あくまで,虐待の早期発見のためのツールであって,通報=虐待者の処罰というわけでもありませんし,通報=施設への裏切りというわけでもありません。通報がなければ,その後の対応もありませんので,通報は極めて重要です。一方,施設側からすれば,必要がある場合には躊躇わず通報できる環境づくりが大切だということになります。

 虐待防止法は,虐待者に対する罰則を規定していません。虐待防止法は,その名のとおり,虐待「防止」のための法であって,虐待者を処罰するための法でも,そのための犯人捜しをするための法でもありません。虐待の犯人捜しをして,施設内部で処理し,虐待者を解雇するといったような対応だと,虐待「防止」の観点から,なんの解決にもなりません。法の趣旨をよく理解し,通報義務の重要性を理解し,必要な場合はその義務の履行ができるよう,研鑽を積んでおくことが必要であろうと思います。

 通報の方法について。虐待防止法では,通報義務については規定ありますが,通報の方法については規定がありません。事実確認の端緒となる通報そのものが重要で,通報を確保するため,匿名も許されると解されます。虐待の早期発見(法5条)のための情報収集が重要ですので,そのための方法については,柔軟な解釈が可能です。

 通報先について。基本的には,介護福祉課が対応することになると思われますから,介護福祉課に直接通報するのが確実です。ただし,行政としては,どこに通報しても,きちんと処理するようにしているとのことですので,とにかく連絡してみましょう。行政側の方には,改めて,通報の重要性を理解し,どこで連絡を受けても,適切な処理ができるような体制づくりをするようにお願いします。たらい回しになって,通報者が通報を止めてしまうということがないようにすべきです。通報を受けた後の対応は,行政の責務(法3条)ですから,その入り口となる通報の受け皿についても,適切な体制の整備が必要と思われます。行政側が,制度構築を含め,真摯な対応をしていき,実績を重ねていけば,それが信用となり,従事者側からしても,通報義務を果たしやすい土壌が整っていくものと思われます。ぜひとも,行政側においても,なお一層の努力をお願いしたいところです。

 通報者の保護について。通報に付随し得る不利益については,虐待防止法上もフォローが必要と考えられており,手厚い保護が図られています。通報によって,刑事責任は問われません(法21Ⅵ)し,施設側が解雇等の不利益取り扱いもできません(法21Ⅶ)。通報先から通報者が漏れることもありません(法23)。これだけ手厚い保護が図られているのは,それだけ法律上「通報」を重視しているということです。通報義務は,虐待防止法における「キモ」ともいうべきもので,ぜひとも,通報義務の重要性を確認していただけばと思います。

 通報があったら,これを端緒として,調査・事実確認(虐待認定)→具体的対応,と進んでいきます。

 ここで,虐待認定の難しさについて,コメントさせていただきます。たとえば,心理的虐待の要件は,「高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと」(その他のの前は例示)になっています。①「高齢者に…心理的外傷を与える言動を」しているかどうか,に加えて,②それが「著しい」かどうかという問題があります。著しいかどうかというのは,評価の問題も含まれます。判断が難しいです。複眼的な視点での検討が必要と思われます。 外部の眼において,複眼的視点で,虐待の防止を目指していくためにも,まずは通報により,外部に発信することは重要と思われます。施設内部において,偏った,単眼的視点のみにおいて検討されるなどといったことのないよう,改めて通報義務の重要性を確認しておきたいところです。

 具体的対応について,虐待防止法は,介護保険法や老人福祉法の定める権限を適切に行使するとのみ定め,具体的には,ケースに応じた柔軟な対応が求められています。たとえば,介護保険法に定める権限としては,調査の権限として報告徴収・立入検査,勧告・公表・措置命令,指定取消しなどが定められています。老人福祉法においても,(法の趣旨の相違から,要件は異なるものの,)類似の権限が定められています。そのほか,行政が,対象者に対し,任意の履行を期待する,行政指導の方法での対応もあり得ます(そのような例も散見されます。)。発想としては,虐待を防止するという目的のため,比較的ソフトな手段から強制的な手段まで,目的に応じた手段をとれるようにされていますので,事案ごとに適切な手段を検討していくことになります。まずは,行政指導により,対象者に任意に対応してもらうよう期待し,これにより効果が得られない場合,さらに強い(法定の)手段を講じていくという方法がとられるようです。

 では,虐待を防止するためには,どうすればよいのか。「虐待の芽チェックリスト」を利用してみましょう。多忙な職場で,やってしまいがちな行動が列挙されています。☑方式になっていますので,それほど時間もとられませんし,定期的に行うと,自分の振り返りにおいて役に立つと思います。職場で,定期的に職員からアンケートのような形で記載してもらい,これを分析・検討して今後の業務に活かすのもよいと思います。たとえば,私は,当初,学びたてのころ,「〇〇ちゃん」と呼ぶことについて,親しみを込めてそのような呼称をすることもあり得るので,「虐待」ということに違和感がありました。しかし,人生の先輩として経緯を示すべき高齢の方に対し,「ちゃん」付けは失礼であって,勉強をしていく中で,特別な必要があり複数人での会議で協議検討して慎重に決定したような場合でない限り,用いるべきでないという形で,考えが変わっていきました。虐待で難しいのは,自分が考えていることが必ずしも正しいとは限らないという怖さであるということを感じたものです。このチェックリストもそうですが,客観的にチェックできる何かを用意しておくと,自分を客観視出来て,有用だと思います。できれば,自分を指導してくれるようなメンターがいると理想的ですが,ぜひこの「虐待の芽チェックリスト」も,活用してみてください。

 そのほか,「セルフチェックリスト」も利用してみましょう。このチェックリストは,さきほどの「虐待の芽~」とは異なる観点から作られており,面白いと思いますので,ぜひ利用してみてください。どんな仕事も,やりがいがある反面,きついことやつらいこともあり得るものです。そんななかで,マイナスと思えるような思い・感情が「生じてしまう」こともあるでしょう。なかには,そのようなことを考えてしまう自分が嫌だと,自分を責めてしまう人もいるかもしれません。しかし,このセルフチェックリストは,人が生きている以上,そのような感情が生じることだってあり得る,それ自体が悪いことではないという前提でつくられています。その感情が「生じている」ことに気づき,「しっかりと手当てする」「助け合って対応できる環境をつくっていく」ことが大切だと考えるわけです。参考になる考え方だと思います。では,マイナスと思えるような思い・感情が心の中に「生じている」「ある」と気付いているけれど,「うまく対応できない」という方は,このチェックリストで,自分がどのような心理状態なのかを客観視した上で,対応・検討のきっかけにできると思いますので,ぜひご活用ください。

 最後に,1つ余談で,私の好きなエピソードを紹介させていただきます。「ニヤリホット」についてです。「ヒヤリハット」について記録しているところは多いかと思いますが,ある老人ホームは,「ニヤリホット」につき記録しているそうです。そこでは,思わずニヤリとしたり,ホッとした言葉や振る舞いを「ニヤリホット」と呼んでいます。たとえば,スタッフが目を離した隙に,車いすから立ち上がろうとした入居者がいた場合,通常は,「ヒヤリハット」として,見守りが強化されるでしょう。しかし,「ニヤリホット」の観点では,「歩こうとがんばっている」と記録します。この記録がケアマネの目に留まり,この入居者のケアプランは,自分で立つこと,歩くことを目指すものへと,変更になるそうです。小さな気づきを軽視せず,災害を未然に防ぐことは大切です。しかし,同じ物事をプラスに受け止めることもできます。「ニヤリホット」は,周囲への温かいまなざしから生まれるとともに,場を明るく和やかにする働きがありそうです。物事は,「見方によって変わる」という側面があります。「気付き」とともに,「プラスの見方」を推奨し,職場を,明るく和やかなものに,虐待の芽が生じにくいものにしていくことはできないでしょうか。

認知症の人に寄り添うまち 吉富町~若年性認知症について考える~

平成29年6月17日(土),@吉富フォーユー会館大ホール,表題の講演会に行ってきました。少し遅くなりましたが,感想を記しておきたいと思います。

講演会は2部構成。1部は,基調講演として,認知症当事者であり,「おれんじドア」代表の丹野智文さんの講演をお聴きすることができました。2部は,パネルディスカッション。「みんなで考えてみよう。寄り添うって何だろう。」と題して,さまざまな立場の方からのさまざまな意見をお聴きすることができました。

印象に残ったのは,諸外国の取り組みにつき,現地に行って感じたことを話していた,丹野さんの報告についてです。日本では,「守ってあげる」という発想が強く,認知症当事者は何もしないでいい,問題が起きないよう外からガードしていこうという傾向があります。一方,諸外国では,基本的に何でも自分でやらせますが,自分でできるためにはどんな工夫があるだろうと考えます。目が見えにくくなった方向けに腕時計を作る場合,ボタン1つで音が鳴り,時間を知らせる仕掛けを作ったりなど,1つ1つ,工夫を重ねつつも,当事者の自主性・独立性を大事にする風潮があります。自己決定権の重要性が叫ばれる今,日本の傾向というのはいかがなものか,自主性を大事にする方向性を打ち出していくべきではないかと,警鐘を鳴らしていたように思います。

この点,弁護士は,なにができるでしょうか。弁護士と認知症当事者のかかわりというのは,たとえば後見の関係などが考えられるところですが,ここでも,当事者の自己決定をどこまで尊重すべきかが議論されています。今回の講演会を1つのヒントにしつつ,私も,引き続き,検討を重ねていきたいと思います。

高齢者の消費者被害に関する講演会@志免町

平成29年4月20日,@志免町町民センターにて,高齢者の消費者被害に関し,講演を行いました。民生委員30~40名を対象に,高齢者の権利擁護の講演に引き続き,私が,消費者問題についての講演を担当させていただきましたが,みなさんびっくりするほど熱心に聴講していただき,盛況のうちに終えることができたと思います。

講演中,いろいろと「気づき」を得るためのポイント(「高齢の方にまつわるお困りごと」の3つの目のQを参照)をお話しさせていただきましたが,民生委員からは,「民生委員は,普段,家のなかまでは入らないようにという指導を受けている。次回からは,そのあたりも踏まえた指摘をいただきたい。」という趣旨のコメントもいただき,次回の課題を見つけることもできました。いろいろとご指摘をいただけたのは,それだけ熱心に聴講していただいていたのだなということだと思いますので,とてもうれしいことだなと思いました。

内容としては,①消費者被害における「見守り」の重要性,②消費者被害に「気付く」兆候・ポイント,③事後的対応で知っておいて損はない!~クーリング・オフ~の3つを中心にお話ししましたが,その他細かな法制度の紹介なども交えて,内容は濃いものになっていたと思います。講演は,なにをどうやって持ち帰っていただくかにいつも頭を悩ませていますが,ぜひとも,この講演を,これからの「見守り」活動に,役立てていただければ,こんなにうれしいことはないなあと思います。 enter image description here enter image description here enter image description here enter image description here enter image description here enter image description here

「虐待」研修会

平成29年3月1日,@吉富町フォーユー会館,民生委員向けの虐待研修会を行いました。民生委員がかかわることの多いであろう養護者による高齢者虐待を念頭に,通報義務の意義,通報義務が生じる場合(虐待の種類と法律上の要件),通報後の流れなどについて,具体的事例を交えながらお話ししました。 研修会後,複数名の感想として,「わかりやすかった」というお声をいただいたので,まずまずだったと思います。 民生委員向けなので,民生委員法なども検討したうえ,研修を行いましたが,講師側でもいろいろな発見がありました。 また今後も,このような活動を通じ,市民の住みよい街づくりに貢献していけたらなと思います。 このような機会を与えていただき,ありがとうございました。 enter image description here

還付金詐欺について

なんとなく今日の西日本新聞を見ていたら,「還付金詐欺 知ってたのに」という記事が目に飛び込んできました。

記事によると,「返金」といわれ,還付金詐欺が思い浮かばなかった,「返金は今日が締め切り」と言われた,ATMの操作をしたことがなく,言われるがままに操作したら,振り込みをしていた,明細をみて初めて気が付いた,「自分は絶対引っ掛からないと思っていた」…などと記載があります。アナウンサーのような落ち着いた口調で話され信用したなどといった例も記載がありました。

このような詐欺は許せません。虎の子の老後資金だったと思われるのに,これを平気でだまし取るというのは,大変悪質です。こうした詐欺を撲滅するためにも,「どうして騙されてしまうのか?」を知っておくのは,大変有意義だと思います。

少し前,「マンガでわかる!高齢者詐欺対策マニュアル」という本が出ました。タイトルのとおり,マンガで事例紹介があり,わかりやすく構成されていながら,騙される心理を,心理学的にも検討してみるといった形で,内容の濃い本になっています。ぜひ一度お読みいただければと思います。

たとえば,この本では,「自分は大丈夫」がいちばん危ない!と指摘しています。人間は,自分にとって都合の悪いことは無視したり,過小評価したりする,「正常性バイアス」がある。さらに,いったん思い込むと,都合のよい情報だけを集めてしまう確証バイアスというものがある。みなさん,基本的に,社会の人はいい人と思いたいという心理もあり,犯罪グループ等は,そこをついてくるというのです。経験豊富な高齢者(特に女性)こそが,犯罪グループ等の考える,(経験したこともないような)新しい手法に引っかかりやすいなどといったことも指摘されています。「今日まで」といった時間的制約で,正常な判断能力を奪おうとするのも,常套的な手段です。人間には,急がされてあせっているときは,問題に役立つ情報を選んで,きちんと判断するのではなく,パッと思い浮かびやすい,「新しい記憶」を取り出して使おうとするという「ヒューリスティック」という傾向があることなども指摘されており,大変参考になります。

決して,騙される方に,なにか落ち度があるわけではありません。悪いのは,だます方です。それでも,これだけ被害がなくならない状況では,知識をもって,常に警戒しておく必要があると思います。著者も,だましは「いつかくる」ではなく「きっとくる」と思って対処すべしとしています。

私は,たびたび,高齢者の消費者被害の講演を行っていますが,少しでも多くの人が,被害を防止するためのお手伝いができればと思います。

本人による成年後見申立て

先日の成年後見研修会における質問について,もう1つ,記事を書いてみます。

本人による後見申立ては可能か。

意外と難しい問題なのです。問題の所在は,以下のとおりです。

後見相当(財産管理能力・判断能力がない)の人が,成年後見の意味を理解して申し立てできるのか。仮に,弁護士に委任して申立てをするのであれば,弁護士と委任契約が結べるのか。

民法では,後見の場合も,本人が申立てできると書いてあります(7条)。私は,条文上,認められている以上は,基本的に可能という考えです。 たとえば,認知症高齢者の方がおられるとします。この場合,常時判断できないわけではなく,波があるのが通常です(研修会では,ことばは悪いかもしれませんが,「まだらボケ」ということもあり得るという指摘があり,なるほど,そのように考えると,イメージはわきやすいのかなと思いました。)。日によって場合によって,時には十分に物事を正確に理解し判断できることもあります。しかし,全体的にならせば,やはり後見相当と判断されることもあるでしょう。この場合,判断能力が比較的正常なタイミングで,後見申立てを決意し行えば,本人の意思尊重の観点からも,問題はないと思います。このように,後見申立ての意味を理解して意思決定し申し立てる可能性がある以上,申立てが許されないということはないと思います。 そもそも,実際に後見か,保佐か,補助か,はたまたそうでないかは,裁判所の判断事項です。実際に審理してみないとわからないといえます。その意味でも,申立てが門前払いで受理されないというのはおかしいと思います。 さらに,厳密には,財産管理能力と申立てを理解して行う能力は,内容も程度も違うでしょうから,財産管理能力の点で後見と判断されたとしても,申し立てる能力はあるということも考えられます。

以上のとおり,本人申立ては可能と考えますが,法律上できることと,実際に本人申立てでやるべきか,どのようにするかは別問題です。 周囲に適切な支援者がいる場合,その人に丁寧に説明の上,後見申立てにつき理解を得て,その人に申し立てていただくという方法もあります。支援者がいない場合,ひとまずあきらめず探してみることもあり得るでしょう。 実際に本人申立てをする場合は,本人の本意で行えているものなのか,主治医,家族,介護担当者などの意思も参考にしつつ,常にチェックする必要があるでしょう。

弁護士が申立てする場合は,そもそも手続申立代理人として受任できるのか,本人に委任する能力とその意思があるのかを,同じく,慎重にチェックする必要があると思います。 この点,委任契約は,比較的内容が難しい契約と思われますので(スーパーで買い物するのとは内容が全然違う),後見相当と思われる場合は,一切受任できないという方もいるようです。 法テラスは,後見の本人申立てについては,一切扶助の決定をしないという扱いをしており,参考になります。(法テラス・民事法律扶助のお話は,また別に書きたいと思います。)

ちなみに,認知症高齢者のお話をしましたが,知的障害・精神障害の方の場合,比較的,判断能力の変化に,波が少ないようです。もちろんケースによるのですが,後見の本人申立てのハードルは,さらに1段あがるかもしれません。

大阪の家庭裁判所は,後見の本人申立てを認めています。全国的にも,知的障害者による後見申立てが認められ,後見が開始された例があります。窓口で申立書の受理につき難色を示されたら,粘り強く説得することも必要かもしれません。仮に,申立てが却下された場合,不服申立て(即時抗告)ができます。

本人の申立てが難しい場合,本来は,市町村長が申立てをすることができます。しかし,この制度では,4親等内の親族の調査とその意向確認に時間を費やしたり,予算の壁があったりなど,迅速適正な保護が図れない実情があります。そのため,本人申立てを検討せざるを得ないことがあるわけです。 せっかく,地域の弁護士と赴任したのですから,このあたりの運用について,市と協議するなどの機会もつくることができたらと思っています。

研修会でもお話しましたが,高齢者・障害者問題については,まわりの人,支援者のお力添えが必要不可欠です。一緒に悩みながら,地域の問題を解決していけたらなと思います。