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「解雇すればいい」は通用しない!中小企業経営者が持つべき労働法の視点とは?
こんにちは、弁護士法人豊前総合法律事務所の西村幸太郎です。
地方の中小企業経営では、「現場が回っているから大丈夫」と感じていても、ある日突然、労務トラブルが経営課題として表面化するケースは珍しくありません。
そのため、問題が起きてから対応するのではなく、労働法の基本構造について知っておく必要があります。
今回は、地方維新塾第1回セミナーでも解説した「会社側が持つ権限と、労働法の基本的な考え方」について、もう一度整理してお伝えします。
会社法の世界と、労働法の世界はそもそも構造が違う
「法律」と一言で言っても、会社法と労働法では、前提としている世界観が大きく異なります。
会社法は、株主総会や取締役会など、「組織をどう創って運営するか」を整理する法律です。どちらかというと、大企業や上場企業のように、「所有」と「経営」が分離された組織を前提に設計されている側面があります。
一方で、労働法が扱っているのは、「人にどう働いていただくか」です。採用、配置、労働時間、指揮命令、解雇など、日々の現場運営に深く関わる領域になります。

地方の中小企業では、株主と社長は同じで、他に役員はいないなど、組織としてはシンプルなので、現場で人がどう働くのかという実務(労働法分野)のウエイトに力点があります。
実際に経営者を悩ませるテーマも、「人」に関するものが中心です。「採用した社員が定着しない」「問題社員への対応に悩む」「どこまで指導してよいのか分からない」といった課題は、会社法というより、むしろ労働法の世界で発生しています。
だからこそ、中小企業経営では、「会社をどう作るか」という視点だけではなく、「人をどう運営するか」という視点まで含めて考える必要があるのです。
経営者は「法律を知る」より、「武器として使う」視点が必要になる
労働法というと、「会社を縛るルール」という印象を持たれがちです。もちろん、労働者保護という側面は強くあります。
しかし、日本の労働法制は、単純に会社側を制限するだけの仕組みではありません。実際には、会社側にも一定の権限や自由が認められています。
これらは、組織を運営するために会社側へ与えられている“武器”でもあります。
ただ、中小企業では、人手不足や組織規模の問題から、それらを十分に活用できていないケースも存在します。
「人が足りないから、とにかく採用する」 「昔からのやり方で何となく回している」 「役割分担が曖昧なまま現場対応している」
こうした状態では、問題が起きた際に、会社としてのルールや期待役割を整理できず、労務トラブルにつながることもあります。
重要なのは「法律を暗記すること」ではありません。「この制度を、自社の組織運営にどう活かすか」という視点です。
法律を“制約”としてだけではなく、“組織を守るための武器”として理解できるかどうかで、経営の安定性は大きく変わってきます。
労働法は「入口・途中・出口」で理解すると見えやすい
労働法というと、「難しい」「複雑」という印象を持たれがちです。実際、個別事情によって結論が変わる場面も多く、条文だけを読んでも全体像が掴みにくい領域と言えます。
ただ、中小企業経営の実務という観点で見ると、労働法は「入口・途中・出口」という流れで整理すると、かなり理解しやすくなります。

以下より、個別に解説します。
入口|会社には“採用の自由”がある
日本では、会社には「誰を採用するか」を決める自由があります。
もちろん、差別的な採用などは許されませんが、基本的には「自社に合う人材を選ぶ」という広い裁量が認められています。これは、労働法の世界において、会社側に与えられている非常に大きな権限の一つです。
なぜここまで採用の自由が重視されているのかというと、日本の労働法では、いったん雇用した後の“出口”が厳しく制限されているからです。
つまり、「合わなければ簡単に解雇できる」という前提では制度設計されていません。だからこそ、入口である採用段階が極めて重要になります。
途中|就業規則と人事権で、組織を運営していく
採用した後、組織をどのように運営していくか。この“途中”のフェーズで重要になるのが、就業規則と人事権です。
就業規則は、単なる社内ルール集ではありません。会社として、どのような働き方を求めるのか、どのような行動を問題と考えるのかを整理する、「組織運営の土台」とも言える存在です。
また、日本の労働契約は、「最初から仕事の内容が完全に固定されている契約」ではありません。一定の範囲で、会社側が業務内容や配置を決めていくことが前提になっています。
そこで重要になるのが人事権です。
誰に、どの仕事を任せるのか。どこに配置するのか。どのような役割を期待するのか。こうした判断は、組織運営そのものに直結します。
特に中小企業では、「人が足りないから何となく回している」という状態になりやすく、業務の整理や役割分担が曖昧なまま運営されていることもあります。
しかし、問題が起きた際には、どんな労務を提供する契約だったのか、言い換えれば、「何を期待していたのか」「どのような業務命令を出したのか」「どんな人事権を行使したのか」が重要になります。だからこそ、業務を言語化し、整理しておくことが、労務リスクの予防にもつながるのです。
出口|日本では解雇のハードルがかなり高い
労働法を理解するうえで、多くの経営者が最初に驚くのが、「日本では解雇のハードルが非常に高い」という点です。
経営者の感覚としては、「問題があるなら辞めてもらえばいい」と考えたくなる場面もあるかもしれません。しかし、日本の労働法では、会社側による解雇は厳しく制限されています。
そのため、「問題が起きてから対応する」という発想だけでは、現実には対応しきれないケースもあります。
だからこそ、入口である採用、途中の組織運営が大切なのです。
「誰を採用するのか→どのようなルールで組織を運営するのか→どのように役割を整理し、指示を出していくのか」の積み重ねが、最終的に会社を守ることにつながっていきます。
法律の建前と、中小企業の現実にはギャップがある
ここまで見てきたように、日本の労働法制では、会社側にも一定の権限が認められています。しかし、実際の中小企業経営では、その“建前通り”に運営できるとは限りません。

採用の自由があると言っても、人手不足の中では「理想の人材だけを採る」という判断が難しい場面もあるでしょう。人事権があると言っても、異動できる部署やポジションそのものが存在しないことすら考えられます。
また、本来であれば就業規則によってルールを整理するべき場面でも、日々の業務に追われる中で、十分に整備できていない企業もあります。
特に地方の中小企業では、一人の従業員の影響が組織全体に直結しやすく、「人の問題」がそのまま経営問題化しやすい構造です。
だからこそ、「法律上できるかどうか」だけではなく、「自社でどう運用するか」という視点が求めらるのです。
会社側が使いこなすべき「3つの武器」
こうした現実があるからこそ、中小企業経営では、会社側に認められている権限を“意識的に使う”ことが重要になります。
特に重要になるのが、「採用の自由」「就業規則」「人事権」の三つです。

それぞれ個別に解説します。
①:採用の自由
日本の労働法では、会社には「誰を採用するか」を決める自由があります。これは、会社側に認められている非常に大きな権限の一つです。
なぜここまで採用段階が重視されるのかというと、日本では“出口”である解雇のハードルが高いからです。セミナーでも、「問題社員に後から対応するより、入口である採用段階が極めて重要になる」とお話ししました。
実際、中小企業では、一人の採用ミスが組織全体に大きな影響を与えるケースは多々あります。
ただ、採用時点でのミスマッチは、後々の労務トラブルや組織不和につながりかねません。
だからこそ、「人が足りないから採る」という発想だけではなく、「自社にどんな人材が必要なのか」「どのような価値観を共有したいのか」まで含めて考えることが必要なのです。
②:就業規則を活用したワークルールの変更
セミナーでも特に強調していたこととして、就業規則の重要性があります。
就業規則というと、「従業員10人以上で必要になる書類」というイメージを持たれがちですが、本来はそれ以上に、「会社としてどのようなルールで組織を運営するのか」を整理するための土台でもあります。
日本の労働法では、解雇には厳しい制限が設けられています。一方で、就業規則については、一定の範囲で会社側がルールを設定できる仕組みになっています。
つまり、「どう働いてもらうか」「どのような行動を問題と考えるか」を、事前に整理できるわけです。
中小企業では、日々の現場対応を優先する中で、「昔からこうしている」「暗黙の了解で回っている」という状態になりやすい傾向があります。しかし、問題が起きた際には、「ルールが明文化されていたか」が重要になってきます。
だからこそ、就業規則は単なる形式的な書類ではなく、「組織運営を言語化するツール」として捉える必要があるのです。
③:広範な人事権
会社には、一定の範囲で、業務内容や配置を決める「人事権」が認められています。セミナー内では「誰に何をしてもらうかを決めることは、組織運営そのもの」とお話ししました。
日本の労働契約は、最初から業務内容が完全に固定されているわけではありません。ある程度、会社側が業務命令や配置転換によって、“後から仕事に色をつけていく”構造になっているからこそ、人事権は重要なのです。
ただ、中小企業では、役割分担が曖昧なまま、「その場で回す」形で業務が進みがちです。その結果、「何を期待していたのか」「どのような役割だったのか」「何をしないといけなかったのか」が整理されないまま、問題が表面化することもあります。
セミナー内でも、業務を細分化し、可視化していく重要性が語られていました。誰が、何を、どの責任範囲で担っているのかを整理することは、人事権を適切に行使するための前提条件ともいえます。
業務の全体像を可視化することが、自社の強みを生かすことに繋がる
中小企業経営では、「現場が回っているから問題ない」という状態になりやすい一方で、業務や役割が属人的になりやすい側面もあります。
しかし、労務トラブルが起きた際には、「誰が、何を、どの責任範囲で担っていたのか」が争点になってきます。
だからこそ、業務内容や役割分担を可視化し、組織として整理しておきましょう。それは単に労務リスクを減らすだけではありません。貴社の強みや、どのような価値を提供している組織なのかを明確にすることにもつながります。
採用、就業規則、人事権は、単なる法律論ではなく、「自社らしい組織をどう作るか」という経営そのものに関わってくる知識なのです。
