私(西村幸太郎)の一連のブログ記事です。私がどういう人間なのか、どういう活動をしているのか、どんなことを考えているのか、どんな知識やスキルを持っているのか、信頼に足る弁護士か、などなど、たくさんの疑問をお持ちの方もおられると思います。そのような方々は、是非こちらの記事を御覧ください。

クレイマー、クレイマー

随分昔ですが,初めて「クレイマー,クレイマー」を観た時。誰が悪いでもなく,みなが子どものためを思って動いているのに,どうしてこうなるんだ,とやるせない気持ちになったことを,鮮明に覚えています。

(以下,ネタバレも含みますので,ご注意ください。) この映画は,英題が,Kramer vs. Kramer とされているとおり,クレイマーさんとクレイマーさんの対決,つまりクレイマー夫婦の親権(法廷)闘争を描いたドラマです。仕事に没頭していた夫は,妻が突然7歳の子を置いて出て行ってしまったため,子どもとともに新たな生活を余儀なくされます。慣れない家事,育児に孤軍奮闘しながらも,できるだけ子どもを傷つけないように気を付けながら,しかしなかなか接し方がわからずに苦しむ父親像が描かれており,同じ父親として,感じるものがあります。子どもが,「僕が悪い子だったから,ママは出ていったの?」と父親に問うシーンは,夫婦の問題を超えた,子どもの複雑な心情が描かれており,涙なしでは見ることができません。親子でぶつかり,腹を割って話し合ってから,父子に親子としての絆が生まれてきたころ。母親が,「子どものことを愛している,1番大事なものに気が付いた」として,親権を主張。望まぬ親権(法廷)闘争に発展していきます。父親は敗訴しますが,意を決して上訴を諦め,母親に子どもを引き渡そうとしたところ。母親は,「あの子の家はここよ。」と言い,子どもを引き取ることなく,しかし母として子どもに会いにエレベーターに乗ったところで,物語は終わります。子の福祉というのがいかに多義的で難しいか,そんなことを考えさせられる内容でした。

私も,この映画を見るたびに,「私は弁護士として,依頼者の利益と,そして子どもの福祉を,適切に検討できているだろうか。」と自問自答せずにはいられません。私も人の子であり,親です。あるべき家族について,常に考えさせられています。

離婚事件に挑む弁護士として,こうした原点を忘れず,最善の解決を目指して,一所懸命に事件に取り組んでいきたいと思います。

外国人と離婚

Q ベトナム人です。日本人の夫と結婚し,「日本人の配偶者等」の資格で在留しています。しかし,夫とは,離婚しようと思っています。在留資格がもうすぐ切れてしまうのですが,在留資格の更新はできますか。夫と離婚しても,日本に滞在できますか。

A 在留資格の更新には,①在留資格に該当すること,②期間更新を認めるに足りる相当な理由,が必要です(入管法21条3項)。①につき,離婚を考えている場合,「日本人の配偶者等」の在留資格該当性が問題になります。入管実務では,有効な婚姻関係があるだけでなく,同居・協力という婚姻の実質が伴って初めて,「日本人の配偶者等」にあたるとされます。別居の経緯や関係修復の意思,子の有無や家族関係・状況等を総合考慮して判断します。婚姻の実質が伴っていれば,本件でも,とりあえずは更新許可される可能性はあります。ただし,在留期間が比較的短期間(最短で6か月)とされることがあるので,注意が必要です。

実際に離婚してしまうと,「日本人の配偶者等」には該当しなくなりますので,在留資格該当性を充たしていると思われる他の在留資格への変更を検討する必要があります。一般には,「定住者」への在留資格変更を検討する場合が多いのではないかと思います。「定住者」は,法務大臣が特別な理由を考慮して居住を認める在留資格で,日本での在留期間等の生活実績を考慮して,在留資格への変更を認める場合もあります。実務上,目安として,実体のある婚姻期間が3年程度以上あり,独立して生計を営むことができ,仕事や生活面でも日本との関連性が相当程度あることが必要です。本件でも,3年程度,日本で婚姻生活を営み,独立して生計を営むことができ,日本との関連性が相当程度認められれば,定住者と認定してもらえるかもしれません。

離婚に際する生活設計

離婚の相談は多いように感じます。特に女性側からの相談の場合,よく耳にする不安として,将来の生活設計に関する不安があります。

一般的・法的に離婚で処理すべきとされる,離婚・親権・養育費・財産分与・慰謝料・年金分割/婚姻費用/DV保護命令などのアドバイスとあわせて,当事務所では,将来の生活設計に不安を抱える方に対し,たとえば,以下のような制度の紹介などもしています。

児童扶養手当,児童手当,特別児童扶養手当,就学援助,母子福祉資金,ひとり親家庭等医療費助成,寡婦・寡夫控除,生活福祉資金…

当事務所のリンク集にも,関連する項目を設けていますので,ご活用ください。

子の引渡し(人身保護請求)をめぐる問題

弁護士として仕事をしていると,ときに,子どもの親権・監護権や引渡しをめぐり,熾烈な争いをせざるを得ない場合があります。弁護士の本音としては,子どものためには,このような争いもよくないのだけど,相手方のところに子どもがいる状態もよくないから,やむを得ず強制的な手段を選択せざるを得ない,ということも多いようです。今回は,子の引渡しをめぐる問題について,考えてみます。

実務上,子の引渡しを求める手続・方法として,①家事審判(審判前の保全処分含む)(子の監護者の指定,その他子の監護に関する処分としての子の引渡し請求など),②人事訴訟(離婚訴訟等の付帯請求として子の引渡し請求),③人身保護請求,④民事訴訟(親権または監護権に基づく妨害排除請求としての子の引渡し請求(最判昭35・3・15)),⑤刑事手続(子の連れ去りが略取行為と評価できる場合に告訴等による刑事司法の介入を求める)などがあります。

従来は,③人身保護請求がよく使われていたそうですが,最高裁の判例で,この請求の要件を厳格に考える傾向があらわれてから,①家事審判(審判前の保全処分)を活用し,子の監護者指定及び子の引渡しを求める審判(審判前の保全処分)の申立てにより解決を図ろうとするケースが多いようです。

もっとも,③人身保護請求には,①審判前の保全処分にはない,迅速性・容易性・実効性という特徴を有しています。そこで,人身保護請求の要件である,「顕著な違法性」(人身保護規則4条)が認められると判断し,さきにみた迅速性・容易性・実効性の観点から実益があると判断される場合には,なお,人身保護請求を検討する意味があると思います。

具体的に検討してみます。

人身保護請求が認められるための要件は,①子が拘束されていること(拘束性),②拘束が違法であること(違法性),③拘束の違法性が顕著であること(違法の顕著性),④救済の目的を達成するために,他に適切な方法がないこと(補充性)とされています(人身保護規則4条)。

特に,問題になるのは,②③の拘束の違法性が顕著であること,という要件です。

一般的には,子の拘束を開始した経緯に違法行為があり,その違法性の程度等からただちに現在の拘束が権限なしになされていることが明らかであると認められる場合をいいます。

具体的には,判例により,場合わけをして,一定の基準が示されていますので,ご紹介いたします。

共同親権者による拘束の場合,その監護は,特段の事情がない限り,親権に基づく監護として適法と考えられます。そこで,違法性が顕著といえるための要件は,厳格になります。判例によると,共同親権者による拘束に顕著な違法性があるというためには,「拘束者が幼児を監護することが,請求者による監護に比して子の福祉に反することが明白であることを要する」とされています(明白性の要件。最判平5・10・19)。 さらに,明白性の要件に該当する場合を,明確化するものとして,以下の2つの類型が挙げられています。ⅰ)拘束者に対し,子の引渡しを命じる審判や保全処分が出され,その親権行使が実質上制限されているのに,拘束者がこれに従っていない場合(審判等違反類型),ⅱ)請求者のもとでは安定した生活が送れるのに,拘束者のもとでは著しく健康が損なわれたり,満足な義務教育が受けられないなど,拘束者の親権行使として容認できないような例外的な場合(親権濫用類型)。

他方,非親権者・非監護者による拘束の場合は,相手方にはなんら監護の権限なく拘束しているのですから,さきにみたような厳しい要件を課す必要はありません。判例は,さきの共同親権者による拘束の場合とは区別して,非親権者・非監護者による拘束の場合,「幼児を請求者の監護の下に置くことが拘束者の監護の下に置くことに比べて子の幸福の観点から著しく不当なものでない限り,拘束の違法性が顕著である場合(人身保護規則4条)に該当し,監護権者の請求を認容すべきものとするのが相当である」としています。

以上が,人身保護請求が認められる要件です。その他,手続的なところで特徴的なのは,原則として請求者は弁護士を代理人として請求しなければならない(弁護士強制主義)とされていること(人身保護法3条),被拘束者である子に代理人がいない場合,裁判所により選任された国選代理人(人身保護法14条2項,人身保護規則31条2項)が子の訴訟代理や調査活動を行うことになるとされていること,迅速に審理できるような規定がおかれていること(請求は他の事件に優先して行われる,審問期日は,請求のあった日から原則として1週間以内に開く,立証は疎明で足りる,判決の言渡しは審問終結の日から5日以内に行わなければならない,上訴期間は3日以内など)などです。

各ケースにおいて,人身保護請求の要件を満たすか否かも検討しつつ,どういった手段により解決するのが最も適切か,ご依頼者様とともに悩みながら,紛争の解決を図っていきたいと思います。

DVに関して

御幣があるかもしれませんが,地方において,DVの問題は多いと耳にします。都心部でお過ごしの夫婦のうち片方が地方に逃げてきたり,地方の実家に逃げ込んだりする例というのもあるようです。

離婚とセットで論じられることも多いですが,たとえば,離婚は家庭裁判所の管轄であるのに対し,DV保護命令は地方裁判所の管轄であるなど,裁判所でもワンストップの体制はとっておらず,法的には,必ずしも, ,家庭のこととひとくくりにして扱われているとはいえません。しかし,紛争の解決にあたる実務家は,もちろん,生活全般の立て直しなどもにらんで,さまざまな目配りをした上で,全体的な解決の途を探らなければなりません。

法律家として関わりが深いのは,さきに見たDV保護命令の手続でしょう。一般的な解説などは,いろいろな情報が出回ってます(当事務所のHPでもリンクしてますが,内閣府男女共同参画局の「配偶者からの暴力被害者支援情報」のページは,とても参考になります。)。ここでは,制度の解説以前の,DV保護命令を利用するメリットについて考えてみます。

保護命令制度は,配偶者や生活の本拠を同じくする交際相手からの暴力を防止するため,加害者が被害者に接近すること等を裁判所の命令で禁止し,更なる暴力を振るわれることを防いで被害者の安全を図るものです。これが直接的な効果といえるでしょう。

ただ,実際のところ,裁判所が取扱件数としても,DV保護命令の件数は,多くはないそうです。そこまでしなくとも相手方に所在がわからないように別居すればよい,結局は保護命令(裁判所)よりも警察の対応がものをいうのではというところがあるのかもしれません。保護命令の効果は,刑事罰による制裁をちらつかせることであって,どうしても接近等を物理的に封じることまではできないのではという懸念が残るということもあるのかもしれません。そもそも論として,家庭の問題に裁判所という国家機関を介入させて進めるのに,抵抗を感じるということかもしれません。 しかし,場合によっては,むしろ,第三者を介入させることによって,無理矢理解決にもっていかなければ,解決にならないときもあります。怖がっている被害者にとっては,裁判所が手助けしてくれたという安心感を取り戻すことにも,大きな意味があるでしょう。親族にまで手が伸びていれば,それを止める意味もあると思います。警察も,保護命令がある方が,「民事不介入」「事件が起こってからでないと」などといった消極姿勢を封じ,積極的に動きやすくなるでしょう。さらに,離婚の協議/裁判を進める上でも,DV事案において,保護命令が出ているかどうかは,非常に重要になってきます。裁判所は保護命令の有無を確認しますし,保護命令があれば暴力はあったという前提で話が進められます。結果として,事実の存否に関する紛糾を避け,早期の解決に至ることもできるかもしれません。子どもとの面会交流の可否についても,保護命令の存否は,大きく影響するでしょう。

DV保護命令の根拠法であるDV防止法は,2001年成立,2004年・2007年・2013年改正…と成長している法律といえます。日々,現実の被害などに耳を傾け,柔軟に対応し,進化を続けているものともいうことができるでしょう。 これを利用する法律家も,法律家だからといって法律論だけにとらわれず,広い視野をもって,依頼者の全体的な利益を考えながら,一方,プロとして,法的な観点からの道筋立ても怠ることなく,依頼者に寄り添って,活動を続けていきたいと思います。

※DV保護命令については,命令の内容・要件がいろいろと定まっていること(あらかじめ書式をしっかりさせておけば見落としがない),すばやく審理したいという要請があること(見慣れた書式の方が読みやすい)などからか,裁判所としても,裁判所書式で申し立てることを推奨していると聞きました。リンクに裁判所書式もアップしているので,必要がある方はご参照ください。

子の私立学校の費用と養育費

受験シーズンです。受験生のお子さんは悲喜こもごも,さまざまなドラマが生まれる季節です。一方,弁護士が担当する事件の中では,親の方でもさまざまなドラマが展開される場合があります。離婚協議(調停/訴訟)中で,まだまだ時間がかかりそうだけど,子どもの学費が心配。国公立に入ってもお金がかかるのに,万が一,私立に通うことになったら…。お子さんにだけは心配事をさせたくない,なんとか安心して通わせたい,という親は多いものです。それなのに,子どものためだといっても,相手方がちっとも払ってくれない。どうしよう…。今回は,そんな局面をイメージしながら,「子どもが私立学校に通い,予想外に出費がかさむ場合,養育費はどうなるのか」などといった問題を取り上げてみます。

まず,随分浸透してきたなと思いますが,一般に,養育費は,いわゆる養育費算定表により計算することが多いです(リンク集にも貼り付けてますので,必要に応じ,ご参照ください。)。しかし,弁護士は,ときに,この算定表の内容を乗り越えようと,この算定表の前提としている事実はこうだが,本件はこうだ,だから修正してこの金額にすべきだ,などと主張をしたりします。そのようなことが可能でしょうか。

前提として,算定表の計算式は,よく理解しておかなければなりません。この算定表は,もともと,少し古い文献ですが,判例タイムズ1111巻末とじ込み「簡易迅速な養育費の算定を目指して―養育費・婚姻費用の算定式と算定表の提案ー」という文献で紹介されたものです。ここに,詳しい算定式やデータが紹介されています。

この文献のデータによると,学校教育費の平均は,中学校で公立年13万4217円・私立年88万9638円,高校で公立年33万3844円・市立年76万3096円とされております。算定表は,たとえば高校生がいる家庭において,公立年33万3844円(月額2万7820円)を支出するものであることを前提に組まれているものです。そこで,子どもが私立に通う場合,実際そこではどれだけの支出があって,それが算定表の前提としている公立の金額を上回ることを主張・立証していくことになると思います。実際,これを考慮して,算定表以上の金額を認める例もあります。なお,相手方も,子どもが私立に入学することに賛成していた(反対していなかった)などの事情があれば,指摘しておいた方がよいでしょう。

ここで注意しなければならないのは,以下の点です。算定表は,養育費を払うべき人が平均の収入を得ている状態で,さきにみた公立学校の学校教育費を支払っているという状態をイメージして計算しているので,仮に,養育費を支払うべき人が平均以上の収入を得ている場合,結果として,公立学校の学校教育費を上回る額が考慮されていることになります。公立高校に通う子がいる世帯の平均年間収入864万4154円とされています。

なお,この問題とセットで論じられるのが,養育費の終期の問題です。通常,養育費は,成人までとされていますが,近時は,大学卒業(22歳)まで学校に通うのが珍しくなく,相手方が認めていたかや子ども本人の希望などの事情を考慮しつつ,22歳までの養育費を認める例もあるようです。私立高校に行ったのは,大学進学を見据えてであるなどという事情がある場合などは,このあたりもきちんと主張していくことになると思います。

以上,細かな話もしてしまいましたが,弁護士にご依頼をいただいた場合,ご依頼者様のご主張されたい子細な事情を拾い上げ,相手方や裁判所にご依頼者様の声を適切に届けるお手伝いができます。冒頭の事案では,こうした事実,法的な帰結を念頭におきながら,できるだけ早期の支払いを受けられるようにという点にも配慮しつつ,柔軟に交渉や裁判手続の活動を行っていくことになろうかと思います。

養育費の算定-新・算定表の活用ー

離婚事件を扱う際,養育費の金額が問題になることも多いです。いわゆる,養育費算定表をもとに算定して,解決することが多いです。

しかし,弁護士としては,いかに事案に即して個別具体的に主張し認めてもらえるかが腕の見せ所。ということで,日々,事案に即した主張立証に励んでいるところですが,調停においては,せっかく力作の書面を出して調停に臨んでも,調停委員から,「算定表によるとこの金額ですよね」と言われることもしばしばです。 こちらの立場からすると,そんなことはわかっていて,それを乗り越えようとして,事実を主張しているのに,書面を見ていないのかと言いたくなるような対応をされたときは,がっかりしたりもします。その場合は,さらに口頭でも説明を重ねて説得するわけですが,裏を返せば,それほど算定表というのが浸透しているということでもあるのかもしれません。

このたび,日弁連が,新算定表を提言していますが,これが今後の主流になるのか,それとも算定表が引き続き利用されるのかは,今後の動向に注目する必要があると思います。ともあれ,この提言では,算定表の問題点等にも具体的に言及されていますので,今後の業務に活かして,依頼者の利益を最大化できるよう,つとめていきたいと思います。